師匠シリーズ
先生

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521 先生 前編  ◆oJUBn2VTGE ウニ 2009/08/21(金) 23:25:12 ID:YUHlb2rI0
蝉の声は相変わらずやかましくて、あたりは薄暗くて、どこまでも同じように曲がりくねった道が続いている。道の先には誰の足跡もない。時どき振り返るけれど地面には僕の足跡がついているだけ。
カーブのたびに誰か僕じゃない人の姿が木の影に隠れたような気がするけれど、きっとサッカクなのだろう。だんだん道は狭くなり、倒れた木がそのまま放っておかれてキノコなんか生えちゃってるのを見るとやっぱりこの先はただの行き止まりじゃないかと考えてしまう。
リュックサックにつめた保存食料、まあそれはクッキーやリンゴだったのだけれど、そういうものが役に立つようなことがないように祈りながら、方位磁針を見たり、振り返ったり、チリンという音を思い出したりして僕は歩き続けた。
やがて一際暗い木のアーチがまるでトンネルの幽霊のように現れ、僕は少しだけ足踏みをしてからその奥に吸い込まれて行く。
なんという名前の木だろう。分厚い葉っぱが頭の上を覆い尽くして、光がほとんど漏れてこない。時どき暗がりから白い手がスイスイと揺れているのが見えた気がして身体が硬くなる。

足元を見ると僕の足は確かに今までと同じ土を踏んでいて、その上に立っている限りは大丈夫だと自分に言い聞かせながらほとんど走るようなスピードでそのトンネルを抜けた。
ぱあっ、と目の前が明るくなる。
白い雲がぽつんと空に浮かんでいる。その下には緑の眩しい畦道が伸びている。畑がある。山の上にはいくつか家が見える。ツバメが飛んでいる。蛙が鳴いている。
僕は、はぁっ、と息を吐き出して、それから吸い込む。
なんだ、別の集落に通じているじゃないか。シゲちゃんめ。嘘こきやがって。そう思って、自然に軽くなる足を振り上げ、畦を進む。でも良く考えると、途中の森の中になにもなかったのは確かだ。
ううむ。嘘つきだと言ってやっても、へこませられるか自信がないな。
ふと思いついて、振り返るとさっき抜けた森の入り口がぽっかりと暗い口を開けている。

522 先生 前編  ◆oJUBn2VTGE ウニ 2009/08/21(金) 23:29:37 ID:YUHlb2rI0
帰る時にまたあそこを通るのかと思うと少し嫌な気分になったけれど、ひょっとするとほかに道があるかも知れないと考えて、とりあえず誰かこのあたりの人を探すことにした。
ひまわりが咲いている道をキョロキョロしながら歩いていると、そこは山に囲まれた案外小さな集落だと気づく。段々畑が山の斜面に並んでいて、埋もれるように家がぽつんぽつんとある。
道には太陽が降り注ぐばかりで、ほかに歩く人の影も見えない。僕は勾配のなだらかな坂道を登って大きな屋根が見えている場所へ向かった。汗を拭いながら登りきると、そこには広い庭と木造二階建ての古そうな家があった。
とても大きい。庭も、庭というより広場みたいな感じ。隅っこの方に鉄棒と砂場が見える。あれ? なんだか学校みたいだな、と思ったけれど学校にしては小さすぎる。少なくとも僕の知っているものよりは。
その時、二階の窓に誰かいるのに気がついた。
風が吹いて、僕の髪が揺れるのと同時にその人の髪も揺れた。黒くて長い髪。白い服。女の人だ。

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