師匠シリーズ
先生

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530 本当にあった怖い名無し sage 2009/08/22(土) 00:06:24 ID:BUHZSLwS0
僕にだ。僕に。
「どうしたの」
その人は窓から少し乗り出して右手を口元に添える。
「ここはどこですか」と僕はつまらないことを聞いてしまった。
なにかもっと気の利いたことが言えたら良かったのに。
「ここはね、学校なの」
「え?」
「がっ・こ・う。ね、上ってこない? すぐそこが玄関。下駄箱にスリッパがあるから履いてらっしゃい」
「は、はい」と僕は慌ててその建物の玄関に向かった。開け放しの扉の向こうに、埃っぽい下駄箱と板敷きの廊下があった。

電気なんかついていなかったけれど、ガラス窓から明るい陽射しが差し込んできて中の様子がよく見えた。左右に伸びる廊下には「一、二年生」や「三、四年生」と書いてある白い板が壁から出っ張っていて、その向こうは小さな教室があるみたいだった。
玄関の向かいにはすぐに階段があって、僕は恐る恐る足を踏み出す。なにしろ片足を乗っけただけでギシギシいう古ぼけた木の階段なのだ。狭い踊り場の壁には画鋲の跡と、絵かなにかの切れ端がくっついていた。
二階に着くと一階と同じような板敷きの廊下が伸びていて、その左手側の教室からさっきの女の人が手を振っていた。

「いらっしゃい」
僕はなんて返事していいか困った挙句、「どうも」と言った。その人はくすりと笑うと、「ここはね、むかしは小学校だったの。今はもうやってないけど。子どもが減ったのね」
と、僕を教室の中に誘った。白い板には「六年生」と書いてあった。
小さな教室には机が五つあった。それが最後の卒業生の数だったのかも知れない。僕はたくさんの机がぎゅうぎゅうに詰まっている自分の学校の教室を思い浮かべて、なんだか目の前のそれがおもちゃのように見えて仕方がなかった。

531 本当にあった怖い名無し sage 2009/08/22(土) 00:07:07 ID:BUHZSLwS0
僕は一人で行ける場所を考えた。いつもみんなでは行かない場所がいいな。図書館とか。
あれこれ考えていると、ふと頭の隅に鎮守の森の神社が浮かんだ。そしてカンバツされていない木々の下の翳りの道。その先にまだ道は続いていた。
またむくむくとその先へ行ってみたい気持ちがわき上がってきた。あの森の中では萎えてしまったその気持ちが、もう一度強くなってくる。
ひとりでも行けるさ。どうってことない。そうだ。午前中に、今すぐに行こう。日の高いうちならそんなに恐くないはずだ。

思い立ったらすぐに身体が動いた。宿題のノートを畳んでから、支度をする。リュックサックを担いでいると、その気配を感じたのかシゲちゃんの妹のヨッちゃんが襖の隙間からじっとこっちを見ていた。
「どっか行くの」
瞬間、僕はこの子も連れて行ったらどうかなと考えた。でもすぐにそれを振り払う。冒険に女は連れて行けない。なにが待っているのか分からないのだから。
「郵便局に行くだけ」と言うと「ふうん」とつまらなそうにどこかへ行ってしまった。
ようし。邪魔者も追い払った。僕は意気揚々と家を出る。太陽の照りつける畦道を北へ北へと向かうと、こんもりとした山の緑がだんだんと近づいてくる。
昔、入山料を取っていたというころの名残である木箱が朽ち果てている所が入り口。峰を登らずに、山の麓に沿って道が通っている。ザクザクと土を踏みしめて前へ前へ進むと、だんだんと木の影で頭上が薄暗くなってくる。

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