師匠シリーズ
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515 先生 前編  ◆oJUBn2VTGE ウニ 2009/08/21(金) 23:06:05 ID:YUHlb2rI0
いばりんぼで喧嘩っ早かったけれど、子分のピンチには一番に駆けつけて「ヤイヤイ」と凄んだり、「にげろ」だとか「とにかくにげろ」だとかといった的確な指示を出して僕らを窮地から救い出してくれたりした。
背丈は僕と同じくらいだったけれど、ギュウギュウに絞った雑巾のような筋肉が全身に張り付いていて、その足が全力で地面を蹴った時には大きな水溜りをらくらくと跳び越し、あとから跳んだ僕らの足が水溜りの端っこでドロ水を撥ねるのを振り返りながら鼻で笑ったものだった。

ただそんなシゲちゃんの親分っぷりの中にも、生来のイタズラ好きが首をもたげてくると僕らはその奇抜さ、迷惑さに閉口した。
山で見つけた変なキノコを「キノコの毒は火を通せば大丈夫」などと言ってうっかり信じたトシボウに食べさせた時など、腹を抱えて昏倒したあげくに医者に担ぎこむ騒ぎになったし、落とし穴づくりに関してはそれはそれは恐ろしい「穴の中身」を用意することで知られていた。
ある時は裏山の竹ヤブに僕らを集め、なにをするのかと思っているとシゲちゃんは「あ、人が落ちそう」と崖の方を指さして叫んだ。
見ると、確かに誰かが竹ヤブの端っこから落ちそうになって竹の子に毛が生えたような細い竹にしがみついている。それは今にもポキリと折れそうに見えた。

わあわあ言いながら慌てて駆け寄るとなんとそれは藁と布で出来た人形で、シゲちゃんに一杯食わされた僕らは、怒ったり、あんまりその人形が良くできていたので感心したりしていたけれど、
間の悪いことに山菜を採りにきていた近所のおばさんがそのシゲちゃんの「人が落ちそう」を耳にして、遠くから僕ら以上に慌てて人形に駆け寄ってきたものだから途中で竹の根っこに躓いてスッテンコロリンと転がり、あやうく崖から落っこちるところだった。
僕らはそのおばさんに叱られ、それぞれの家でしかられ、とにかくさんざん絞られたのであるが、シゲちゃんはさらに人形の出来が良すぎたせいでカカシの作成をじいちゃんに命じられ、家の田んぼと畑のカカシを全部作り直させられていた。

516 先生 前編  ◆oJUBn2VTGE ウニ 2009/08/21(金) 23:09:22 ID:YUHlb2rI0
そのあいだシゲちゃんは遊びにも行けずに、うなだれながらカカシをせっせと作っていたのだけれど、その目の奥には次のイタズラを考えている光がぴかりと点っていて、僕らにはそれが頼もしかったり迷惑だったりしたものだった。

田舎の暮らしにもすっかり慣れて、シゲちゃんたちほどではないけれど僕の身体にも日焼けが目立ち始めたある日、「鎮守の森へ行こう」というお誘いがかかった。
鎮守の森は北の山の峰に沿ってズンズン分け入った奥にある。
高い山に囲まれているせいで太陽が東や西よりにある時間、そのあたりは昼間でも暗くて、真上に昇っている時でも生い茂るクスノキやヒノキの枝や葉っぱで光が遮られ、その森の底を歩く僕らにはほんのかけらしか零れてこない。
それだからシゲちゃんとタロちゃんの後を追いかけて、ようやく鎮守の森の真ん中に佇む神社を見つけた時にはなんだか厳粛な気持ちになっていた。

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