師匠シリーズ
先生

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677 先生 中編  ◆oJUBn2VTGE ウニ 2009/08/28(金) 23:21:54 ID:4kHIdhSj0
「起きたか」
考え込んでいると、おじさんがやってきて飯を食えと言う。シゲちゃんも起きてきて、一緒に食べているとおじさんにもう一度昨日のことを聞かれた。
「どうして夜にあんな山に登ったのか」と。
半分はお説教だ。僕らは口裏を合わせるように顔入道のことは言わなかった。そうだろう。秘密を守るのは仲間の証なのだから。
ただ探検したかった。もうしない。ごめんなさい。そんなことを何度となく繰り返して乗り切るしかなかった。
昼ご飯を食べ終わると、じいちゃんの部屋に呼ばれた。
僕とシゲちゃんは正座をさせられて、じいちゃんの険しい目にじっと見つめられる。お説教なら別々にせずに一度にしてくれよと思いながら俯いていた。
「顔入道さんだな」とじいちゃんは言った。
僕は驚いて顔を上げる。じいちゃんは顔入道のことを知っていたらしい。
「わしらも子どもの時分に見に行ったものだが」と眉間に皺を寄せた。そして「あれは、おそろしいものだ」と呟く。
どうやらじいちゃんの子どものころにも顔入道が怒ったことがあるらしい。その時にはなにか大変なことが村に起こったそうだが、詳しくは教えてくれなかった。
顔入道さんにはもう近づいてはならないと、きつく厳命されて僕らは釈放された。
さすがにシゲちゃんもしょげかえっていて、元気がなかった。竹ヤブ人形事件の時よりも大ごとになってしまったからだ。
次のイタズラを思いついて目の奥がぴかりとするのはまだ先のことだろうと僕は思った。
その日は結局夏休み学校には行けなかった。午前中を寝て過ごしてしまったのだから仕方がない。僕は昨日あったことを先生に聞いてほしかった。こんな不思議なことが世の中にあるんだということを。
けれど同時にこうも思う。先生なら、この出来事に僕には思いもつかなかったような答えを見つけ出してくれるんじゃないかと。

679 先生 中編  ◆oJUBn2VTGE ウニ 2009/08/28(金) 23:24:32 ID:4kHIdhSj0
前に一度午後にもあの学校に様子を見に行ったことがあるけれど、先生はいなかった。お母さんにつきそって病院にでも行っているのかも知れない。
時間がゆったりと流れる夏の家の中で、早く明日にならないかと僕はやきもきしていた。
シゲちゃんはその後元気がないなりにどこかに遊びに行ってしまったが、僕はそんな気になれず家で宿題をぽつぽつと進めていた。けれどだんだんと心の中に、ある欲求がわいてきて、それが大きくなり始めた。
昼間なら、あんまり怖くないよな。
そんなことを思ってしまったのだ。つまり顔入道を、タロちゃんが見たものを確かめに行こうというのだ。さすがにこれは悩んだ。じいちゃんに「あれは、おそろしいものだ」なんて言われたばかりなのだ。でも、見たかった。知りたかった。
タロちゃんは、一体なにを見たのか。
一度逃げ出した場所にもう一回挑戦することで、手に入るものもある。例えば鎮守の森の奥に進むことで先生に会えたようにだ。
バシン、とノートを閉じた。ようし、やってやる。
僕は立ち上がった。

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