師匠シリーズ
怪物 「結」

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96 師匠コピペ29 sage 2008/10/27(月) 11:20:17 ID:SNTEH34B0

342 怪物   ◆oJUBn2VTGE ウニ 2008/08/03(日) 23:05:41 ID:ScuN9+/G0
「だから、言ってるでしょ。同じだって。あんたも見たんだろ、アノ夢を」
真横から聞こえたその声に驚いて顔をそちらに向ける。
小さな鉄柵の向こうにブランコがひとつだけあり、そこにもう一人の人物が腰掛け
ていた。キィキィと鎖を軋ませながら足で身体を前後に揺すっている。
「あんた、高校生?」
馬鹿にしたような言葉がその口から発せられる。目深にキャップを被っているが、
若い女性であることは、声と服装で分かる。太腿が出たホットパンツにTシャツと
いう、涼しげな格好。あまり上品なようには見えない。
「ま、ここまでたどり着いたってことはタダモノじゃない訳だ」
意味深に笑う。
私の体内の血液が徐々に加熱されていく。
同じなのだ。この人たちは。私と。
彼らは街で起こった怪奇現象と母親殺しの夢の秘密を解いて、ここに集った人間た
ちなのだ。
得体の知れない不吉さと不安感に駆られて動き回った数日間が、絶対的に個人的な
体験だったはずの数日間が、並行する複数の人間の体験と重なっていたということ
に、歓喜と寒気と、そして昂揚を覚えていた。
「あなた、さっきの夢は、どこまで?」
おばさんがこちらを向いて聞いてきた。私はありのままに話す。
「やっぱり」少し残念そう。「みんな同じ所までで目が覚めてるのね」
「も、もういいよ。ここでいつまでも話してたってしょうがないだろ」
眼鏡の男が手を広げて大げさに振った。
「でもねぇ、これ以上はどうやっても探せないのよね」おばさんが頬に手のひらを
当てる。「あんな、月とビルの位置だけじゃ、ある程度にしか場所を絞れないし、
時間経っちゃったから、余計に分かんないのよね」
「こうしてたって、余計分かんなくなるだけじゃないか」
「そうよねえ。取り合えず、近くまで行けばなにか分かるんじゃないかと思ったん
 だけど……」

97 師匠コピペ30 sage 2008/10/27(月) 11:22:05 ID:SNTEH34B0

345 怪物   ◆oJUBn2VTGE ウニ 2008/08/03(日) 23:09:57 ID:ScuN9+/G0
そんな言い合いを聞きながら、私の脳裏には先週の漢文の授業で先生が教えてくれ
た「シップウにケイソウを知る」という言葉が浮かび上がっていた。確か、強い風
が吹いて初めて風に負けない強い草が見分けられるように、世が乱れて初めて能力
のある人間が頭角を現すというような意味だったはずだ。
昼間には無数の人々が行き来するこの街で、誰もかれも自分たちのささやかな常識
の中で呼吸をしながら暮らしている。それが例え、日陰を選んで歩く犯罪者であっ
たとしても。けれど、そんな街でもこうして夜になれば、常識の殻を破り、この世
のことわりの裏側をすり抜ける奇妙な人間たちが蠢き出す。普段は、お互いに道で
すれ違っても気づかない。それぞれがそれぞれの個人的な世界を生きている。
それが今はこうして、同じ秘密を求めてここにいるのだ。のっぺりとした匿名の仮
面を外して。
私はそのことに言い知れない胸の高鳴りを覚えていた。
「4人もいたら、なにか良い知恵が浮かんできそうなものなのにね」
おばさんがため息をつく。
キャップ女が鼻で笑うように「4人だって? 5人だろ」と指をさした。
みんながそちらを見る。大きな銀杏の木がひとつだけ街灯のそばに立ってる。その
木の幹の裏に隠れるように、白い小さな顔がこちらを覗いていた。
私はそれが生きている人間に思えなくて、髪の毛が逆立つようなショックがあった。
けれどその顔が、驚きの表情を浮かべ、恥ずかしそうに木の裏に隠れたのを見て、
おや? と思う。
「え? あら。女の子?」
おばさんが甲高い声を上げる。
「お、おいおい。いつからいたんだ。全然気づかなかったぞ」と眼鏡の男が呟いて、
額の汗をハンカチで拭う。
「ねぇ、あなた近所の子? こんな遅くに外に出て、だめじゃないの」
おばさんが優しい声で呼び掛けると、顔を半分だけ出した。10歳くらいだろうか。
「あら、この子、外人さんの子どもかしら」
言われて良く見ると、眼球が青く光っている。街灯の光の加減ではないようだ。

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