師匠シリーズ
怪物 「結」

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「……ッ」
悲鳴が聞こえた。
それは私が上げたのだと気づく。
動悸がする。息が苦しい。
夢だ。夢を見ていた。
身体を起こす。ベッドの上。
天井から降り注ぐ光が眩しい。明かりがついたままだ。

88 師匠コピペ21 sage 2008/10/27(月) 11:01:25 ID:SNTEH34B0

325 怪物   ◆oJUBn2VTGE ウニ 2008/08/03(日) 22:34:33 ID:ScuN9+/G0
時計を見る。夜中の1時半。服を着たままいつの間にか寝てしまっていた。手には
じっとりと汗をかいている。まだなにか握っているような感覚がある。何度か手の
ひらを開いたり閉じたりしてみる。
辺りを見回すが、特に異変はない。粟立つような寒気だけが身体を覆っている。
そのとき、床に置いたラジオから奇妙な声が聞こえてきた。
ひどく間延びした音で、笑っているような感じ。
夜の家は静まり返っている。カーテンを閉めた2階の窓の向こうからもなんの音も
聞こえない。
ただラジオだけが、間延びした笑い声を響かせている。
私は思わずコンセントに走り寄り、コードを引き抜いた。
ぶつりとラジオは黙る。
つけてない。私は眠る前に、ラジオなんてつけてない。
なんなのだ、これは。
家電製品の異常。まるでポルターガイスト現象だ。
私は机の引き出しを恐る恐る開け、乱雑に詰め込まれた文房具の中から鋏を探し出
した。
中学時代から使っている小ぶりな鋏。手に持ってみたが、特におかしな所はない。
ひとまずホッとして引き出しを閉める。
どういうことだろう。
今までの夢は明け方、目覚める直前に見る明晰な夢だった。他の人たちの体験談も
一様に同じだ。しかし今のは1回目か2回目のレム睡眠時の夢だ。今までだって本
当はこの、眠りについてあまり経っていない時間帯にも同じ夢を見ていたのかも知
れない。ただ忘れてしまっているだけで。
でもさっきのリアルさはなんだ? 明らかに今までの夢とは違う。鋏を握る感触も
はっきり残っている。
私は左手で自分の顔を触った。そしてこう思う。
(こっちが夢なんてことはないよな)

89 師匠コピペ22 sage 2008/10/27(月) 11:04:21 ID:SNTEH34B0
326 怪物   ◆oJUBn2VTGE ウニ 2008/08/03(日) 22:38:47 ID:ScuN9+/G0
母親に鋏を突き立てようとしている少女こそが本当の私で、今こうして考えている
私の方が彼女の見ている夢なんていうことは……
なんだっけ、こういうの。漢文の授業で聞いたな。胡蝶の夢、だったか。
ありえない、と首を振る。
だが少なくとも、今までの夢とは緊迫感が違った。恐怖心のあまり途中で目覚めて
しまったのだから。
(夢……だよな)
私は恐ろしい想像をし始めていた。真夏の夜の部屋の中が冷たくなって来たような
錯覚を覚える。
これまでのは、焦点となっているその少女の見ていた殺意に満ちた夢が夜の街に漏
れ出したもので。今見たのは、現実のドス黒い殺意がリアルタイムで私の頭に干渉
していたのではないか、という想像を。
だとしたら、さっきの光景の続きは?
もし夢を見ながら彼女の殺意に同調していた街中の人間たちが、私のようにあのタ
イミングで目覚めていなかったとしたら?
私は居ても立ってもいられなくなり、部屋の中をぐるぐると回った。
油断なのか。もう明日にも手が届くと思ってだらしなく寝てしまった私のせいなの
か。
でもなにが出来たって言うんだ。あんな遅くに間崎京子の家まで行って似顔絵を描
かせ、それを手にまたあの住宅街を聞き込みすれば良かったのか?
せめて家の場所が特定できれば……
そう考えたとき、私は視線を斜め下に向けた。
待て。
ドアの向こうの景色。月が半分隠れていたビルのシルエット。夢の中の視線。
あのビルは知っているぞ。
市内に住む人間ならきっと誰でも知っている。一番高いビルなのだから。
ビルの位置と、月の位置。それが分かるなら、場所が、それらが玄関の中からドア
越しに見えている家が、ほぼ特定出来るかも知れない!

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