師匠シリーズ
怪物 「結」

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114 師匠コピペ50 sage 2008/10/27(月) 12:55:20 ID:sjwohlYO0

412 怪物  幕のあとで  ◆oJUBn2VTGE ウニ 2008/08/04(月) 00:13:04 ID:/ZE8/Gio0
「まあいいわ。言うべきことを言うね。……あなたは今、すべてが終わったと思っ
 ているわね。でもだめ。終わってないの」
淡々と語る口調は、いったいこの世のものなのだろうか。私の脳が生み出した幻覚
ではないという保障は? なんという名前だったか、あの近所の男の子。お化け電
話から声が聞こえると言って怯えて逃げ出した子。私の耳には聞こえなかった。誰
か、今すぐここへ来て、私の代わりに受話器に耳をあててくれないか。
「あなたは死体の顔を見たわね。すっかり血が抜けたみたいに土気色をしていた。
 いったいどれくらい前に死んだのかしら。6時間? 半日? 一日? どちらに
 しても、きっとあなたが駆けつける前からとっくに死んでいたわね。そう、死臭
 も嗅いだはずよ」
なんだ? なにを言ってる? 
なにを、言ってるんだ?
「あなたの、あなたがたの最後に見た夢は、いったい誰の見た光景なんでしょうね」
爪先から頭まで電流の走り抜けた場所に、今度は冷たい金属を流し込まれたような
悪寒が発生する。
「終わってないのよ。途絶えたはずの意識に、続きがあった。そのかわいそうな子
 どもの魂は、肉体の檻から解き放たれて、今は夜の闇を彷徨っているわ。そして
 少しずつ、とっても恐ろしいものに生まれ変わろうとしている。それは檻の中に
 あっても街中に手が届くような力を持っていた。名前はまだない。怪物に、名前
 をつけてはいけない。きっと取り返しのつかないことになるから」
ねえ、聞いてる?
受話器の向こうで誰かが首を傾げる。
「あなたはもう一度それに遭うことになる。そして病いにも似た刻印を押され、真
 綿で締められるような苦しみの中に身を置くことになる。忘れないで。今夜出会
 った人たちがきっと助けになるでしょう。顔をよく覚えておくことね。あ、でも
 だめ。一人はいなくなる。『代が替わる』のね」
なにを言ってるんだ、いったい。

115 師匠コピペ51 sage 2008/10/27(月) 12:58:02 ID:sjwohlYO0

416 怪物  幕のあとで  ◆oJUBn2VTGE ウニ 2008/08/04(月) 00:16:07 ID:/ZE8/Gio0
「わたしにも分からないのよ。ただこんな電話を掛けたという記憶があるだけ。夢
 の中でわたしが話してるのね。それを再現してるのよ。運命が変えられるかどう
 かは分からない。でも心構えをするってことが、大事になることだってあるでし
 ょう」
クラノキ、と彼女は名乗った。
「顔も知らない人の夢を見るなんて珍しいな。きっといつかあなたとわたしは友だ
 ちになるのかも知れないね。そのころのわたしは、今夜の電話のことなんて忘れ
 てしまってるでしょうけど」
じゃあ、お休みなさい。
そう言って電話は切られた。
混乱する頭を抱えて、私は電話ボックスを出る。
夢。まるで夢の中だ。なにが現実なんだろう。ポルターガイスト現象の焦点だった
少女が、エキドナが、怪物たちのマリアが、最期に恐ろしい怪物を産み落としたと
いうのか。それがやがて私に苦しみをもたらすと? なんなのだ。どこからどこま
でが現実なんだ。目を閉じて、一秒数えよう。目を開けたら、他愛もなくありふ
れた土曜日の朝でありますように。
そのときだ。
目を閉じた私の中に、説明しがたい奇妙な感覚が生まれた。
それは言うならば、どこか分からない場所で、なんだか分からないものが、急に大
きくなっていくような感覚。
私の五感とは全く関係なく、それが分かるのである。
私は辺りを見回す。離れたところにあったはずの街灯がもう消えてしまって、見え
ない。
大きくなってる。まだ大きくなってる。
熱を出したときに、布団の中で感じたことのあるような感覚だ。
象くらい? クジラくらい? もっとだ。もっと大きい。ビルくらい? ピラミッ
ドくらい? 
もっと。もっと、大きい。

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