師匠シリーズ
怪物 「結」

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68 師匠コピペ3 sage 2008/10/27(月) 10:16:04 ID:SNTEH34B0

ガタン、と椅子が鳴って先輩が立ち上がる。
「あなた、占いが好きとか言ってたわね。そんなこと、勝手に占ったの?」
しまった。怒らせた。
ポルターガイスト現象の焦点となったことのある人間に、あの夢はどう映ったのか。
それを聞いてみたかっただけなのだ。そこになにかヒントが隠されていると思って。
けれど先輩は私の言葉を完全に誤解し、修正が効きそうにない雰囲気だ。
いや、誤解ではないのだろう。他人に触れられたくない部分を土足で踏みにじった
のは事実なのだから。
「ごめんなさい」
私は深々と頭を下げる。
「もういいでしょう。部活、行くから」
先輩のその言葉に私は引き下がらざるを得なかった。
知らない人ばかりの3年生の教室の廊下を俯いて帰る。足が重い。(今度、ちゃん
と謝らなきゃ)と思う。そういえば占いなんて暫くしていないことに気がつく。
間崎京子はどうやって真相に近づいたのだろう。またタロット占いでもしたのだろ
うか? それとも私のように目と耳を使って情報を集め、推理を重ねていったのか。
5時間目の休み時間に教室を覗いてみたが、あいつは席にいなかった。朝、廊下で
すれ違ったので多分また早退だろう。
そういえばすれ違い様に「母親を殺す夢を見たか」と問い掛けたとき、あいつは
「見てない」と言った。遅刻しそうだったので、去っていく後姿を引き止めはしな
かったが、あれは本当だったのだろうか。確かにあいつの家は地図上のオレンジの
円の端の方にあり、まだ見た夢を思い出せない人たちを表す緑色の点が存在するエ
リアの中なのではあったが、この不思議な現象が単に距離によるアンテナの精度だ
けに依存している訳ではないのは明らかだ。
1年生のフロアに戻った私は、まだ帰宅せず残っている他のクラスの生徒たちから
出来るだけの情報を得る。そして地図を蛍光ペンで埋めていった。
やはりだ。赤、青、緑という夢に関する3つの色はバームクーヘンのようにはっき
りエリアで別れているけれど、中にはオレンジの円の外周にあたる緑のエリアの中
にぽつりと青い点があったり、青のエリアに赤い点があったりしている。そういう
子に追加取材を試みるといずれも霊的な体験をよくするという言質が取れた。

69 師匠コピペ4 sage 2008/10/27(月) 10:19:15 ID:SNTEH34B0
270 怪物   ◆oJUBn2VTGE ウニ 2008/08/03(日) 01:54:27 ID:ScuN9+/G0
この私自身、木曜日に初めて見た夢を覚えていたのに、住んでいる家は金曜日を表
す青い点のある半径エリアにあるのだ。おそらく、直観だか、霊感だかのイレギュ
ラー的な個人の能力もここには影響している。
それを踏まえて、考える。あの間崎京子がまだ夢を思い出せない緑の点のひとつな
どで収まっているものだろうか。
分からない。あの女独特の、”得体の知れない感じ”のバックボーンがなんなのか、
私にはまだ分からないのだから。
廊下や教室に人影もまばらになったころ、私はようやく蛍光ペンを置いた。
結局、高野志穂の他に、木曜日以前から夢を覚えていた人はいなかった。高野志穂
の家の近所に住んでいる子は居たが、その子は怖い夢を見ていることさえ気づいて
いなかった。
まあ、いい。出来る限りの精度は上げた。
地図に落とされたボールペンの丸をもう一度見つめる。
急ごう。
地図を鞄に仕舞い、私は校舎を後にする。
早足で歩き、一度家に帰って自転車を手に入れる。サドルに跨りながら空を見上げ
るとまだ陽は落ちていなかった。さあ、行こう。そう呟いてペダルを漕ぎ出す。
途中、思いついて公衆電話に寄ろうとした。
しかしちょうど通り道にあった公衆電話は例の「お化けの電話」だ。なんとなく嫌
だったので、少し遠回りして別の公衆電話へ向かう。
ほどなくして電話ボックスにたどり着き、自転車を脇に止めて、中に入って受話器
を上げる。
テレホンカードを入れて、覚えている番号をプッシュする。
コール音が数回鳴ってから相手が出た。いないだろうと思って、留守番電話に入れ
るつもりだったのに。
仕方がないので、忙しいから今日は会えないということを伝える。

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