師匠シリーズ
怪物 「結」

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80 師匠コピペ13 sage 2008/10/27(月) 10:45:26 ID:SNTEH34B0

283 怪物   ◆oJUBn2VTGE ウニ 2008/08/03(日) 02:25:49 ID:ScuN9+/G0
私は机の上に放り投げた鞄から同級生の住所録を取り出す。今日の昼間、カラフル
な地図を完成させるのに活躍した資料だ。
パラパラと頁を捲り、間崎京子の連絡先を探し当てる。そこに書いてある電話番号
をメモしてから部屋を出て、階段を降りてから1階の廊下に置いてある電話に向かう。
良かった。誰もいない。居間の方からはテレビの音が漏れてきている。
メモに書かれた番号を押して、コール音を数える。
ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ……
「はい」
ななつめか、やっつめで相手が出た。聞き覚えのある声だ。ホッとする。良かった。
家族が出たらどうしようかと思っていた。それどころか、使用人のような人が電話
口に出ることさえ想定して緊張していたのだ。彼女の妙に気どった喋り方などから、
前近代的なお屋敷のような家を想像していた。そんな家にはきっと彼女のことを
「お嬢様」などと呼ぶ使用人がいるに違いないのだ。
だがひとまずその想像は脇に置くことにする。
「あの、私、ヤマナカだけど。同じ学年の」
少しどもりながら、あまり親しくもないのにいきなり電話してしまったことを詫び
る。
電話口の向こうの間崎京子は平然とした声で、気にしなくて良い、電話してくれて
嬉しいという旨の言葉を綺麗な発音で告げる。
どう切り出そうか迷っていると、彼女はこう言った。
「エキドナを探したいのね」
ドキッとする。
私のイメージの中で間崎京子は何度もその単語を口にしていたが、現実に耳にする
のは初めてだった。ギリシャ神話の怪物たちの名前を挙げて共通点を探せと言った
彼女の謎掛けが、本当にこの街に起こりつつある怪現象を理解した上でそれを端的
に表現したものだったのだと、私は改めて確信する。
いったいこの女は、なにをどこまで掴んでいるのか。

81 師匠コピペ14 sage 2008/10/27(月) 10:47:42 ID:SNTEH34B0

284 怪物   ◆oJUBn2VTGE ウニ 2008/08/03(日) 02:27:07 ID:ScuN9+/G0
母親を殺す夢を見ていないというその彼女が何故あんなに早い時点で、街を騒がせ
ている怪現象がたった一人の人間によって起こされているのだと推理出来たのか。
私のようにあちこちを駆けずり回っている様子もないのに、怪現象の正体を恐ろし
く強大なポルターガイスト現象だと見抜いた上で、『ファフロツキーズ』という言
葉に振り回されるな、などという忠告を私にしている。どうしてこんなにまで事態
を把握できているのだろう。
「……そうだ。これからなにが起こるのか、おまえなら知っているだろう。それを
 止めたい。力を貸してくれ」
「なにが起こるの?」
間崎京子は澄ました声でそう問い掛けてくる。
私は儀式的なものと割り切って、今日一日で私がしたこと、そして知ったことを話
して聞かせた。
「そんなことがあったの」
面白そうにそう言った後、彼女の呼吸音が急に乱れる。
受話器から口を離した気配がして、そのすぐ後にコン、コン、と咳き込む微かな音
が聞こえた。
「どうした」
私の呼び掛けに、少しして「大丈夫。ちょっとね」という返事が返って来る。
今更ながら彼女が病欠や早退の多い生徒だったことを思い出す。彼女は私よりも背
が高いけれど、線が細く、透き通るようなその白い肌も含め、一見して病弱そうな
イメージを抱かせるような容姿をしている。
そう言えば今日も早引けをしていたな。
そう思ったとき、つい先ほどの「駆けずり回っている様子もないのに、どうしてこ
んなに事態の真相を掴んでいるのか」という疑問がもう一度浮き上がってくる。
もし。もし、だ。もし彼女の病欠や体調が悪いからという理由の早退がすべて嘘だ
としたならば。
彼女には、十分な時間がある。

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