師匠シリーズ
怪物 「結」

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106 師匠コピペ40 sage 2008/10/27(月) 11:45:43 ID:IsGl4y7f0

371 怪物   ◆oJUBn2VTGE ウニ 2008/08/03(日) 23:42:37 ID:ScuN9+/G0
でも目を逸らせない。
眼鏡の男が、腰の引けたままゴミ袋の上部に出来た破れ目に指をかける。さっきの
猫の仕業だろうか。
ガサガサという音とともに、中身が月の光の下に現れる。
土気色の肌。
目を閉じたまま、口を半開きにした幼い女の子の顔が、ゴミ袋の破れ目から覗いて
いる。生きている人間の顔ではなかった。
それを見た瞬間、全身の血が沸騰した。
足が土を蹴り、無意識に階段の方へ駆け出す。
けれど次の瞬間、前に回りこんだ何者かの手に肩を押さえられる。遠慮のない力だ
った。目の前に顔が現れる。目深に被ったキャップの下の険しい表情。
「落ち着け」
その言葉が私に投げ掛けられるすぐ横を、眼鏡の男がなにか喚きながら駆け抜けよ
うとする。
キャップ女は間髪要れずに右足を引っ掛け、眼鏡の男はその場に転倒した。
「なにするのよ」とおばさんが叫んで、私の背中を押す。その力は私の前進しよう
とする力と併わさり、じりじりとキャップ女は後退を始める。
「落ち着け。なにをする気だ」
なにをする気? 決まってる。報復をしなければいけない。同じ目に遭わせてやる。
子どもをゴミ同然に捨てながら、202号室のドアの向こうにのうのうと生きてい
るあの母親を。
「どきなさいよ」とおばさんが上ずった声でキャップ女を怒鳴りつける。
すぐ横では眼鏡の男が立ちあがろうとする。
「クソッ」と呻きながら、キャップ女が右足を跳ね上げ、男の顔面を蹴った。ジャ
ストミートはしなかったが、眼鏡が弾けるように宙に飛んで草むらに消えた。
「うわっ」と、眼鏡の男は両手で顔を押さえる。
足を上げたせいでバランスを崩したキャップ女が体勢を立て直す前に、私は掴まれ
た肩を振りほどきながら一気に突進した。

107 師匠コピペ41 sage 2008/10/27(月) 11:47:01 ID:IsGl4y7f0

373 怪物   ◆oJUBn2VTGE ウニ 2008/08/03(日) 23:44:55 ID:ScuN9+/G0
一瞬、押し返されるような強い反動があったが、堰が切れるようにその壁が崩れる。
3人が絡み合うようにひっくり返り、勢いあまったキャップ女の側頭部が階段の基
部のコンクリートに叩きつけられるのが目に入った。
私も地面に肘を強く打っていた。痛みに顔を顰めるが、すぐに立ちあがろうとする。
でもなにかが太腿の裏に乗っている。邪魔だ。おばさんの胴体か。「アイタタタタ」
じゃない。すぐに部屋に行かないと。この頭を掻き回すざわめきが、どこかに去っ
ていってしまう気がして。
いきなり服を引っ張られた。後ろからだ。首を廻すと、青い眼の少女が震えながら
私の上着を両手で掴んでいる。頭を振って、なんらかの否定の意を表現しようとし
ている。
「離せ」
そう口にした瞬間、なにか蛇のようなものが首の根元に絡みついた。ついで、ぴた
りとその本体が私のうなじのあたりに接着する。
「悪いね」
そんな言葉が耳元で囁かれ、絡みついたものが私の首を締め上げる。狙いは気道で
はない。頚動脈だ。
とっさに腕を背後に回そうとするが、もっと力の強い別のなにかが私の胴体ごと腕
を挟み込む。
意識が遠のいていく。夜空には月が冷え冷えと輝いている。星はあまり見えない。
暗い。月も暗くなっていく。苦しいけれど、少し心地よい。
そこで世界はぶつりと途絶えた。

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