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66 師匠コピペ1 sage 2008/10/27(月) 10:14:47 ID:SNTEH34B0
267 怪物 起承転「結」上 ◆oJUBn2VTGE ウニ 2008/08/03(日) 01:44:23 ID:ScuN9+/G0
その日の放課後、私は3年生の教室へ向かった。
ポルターガイスト現象の本を貸してくれた先輩に会うためだ。廊下で名前を出して
聞いてみるとすぐに教室は分かった。
先輩は私の顔を見るなりオッ、という顔をして手招きをしたが、席まで行くとすぐ
に両手を顔の前で合わせて謝る。
「ゴメン。今日はこれから部活なんだ」
剣道は止めたんじゃなかったんですか、と聞くと「文科け~い」と言ってトランペ
ットを吹く真似をする。吹奏楽部かなにからしい。
「一つだけ教えてください」
そう言う私に、「ま、座りなさい」と近くの席から椅子を引っ張ってくる。その周
りでは帰り支度をする生徒たちが私を物珍しそうに横目で見ている。
多少は時間をとってくれるようなので、順序立てて聞くことにする。
「先輩の家で起こったポルターガイスト現象は、イタズラでしたか?」
先輩は目を丸くしてから笑う。
「いきなりだな。でも違うよ。私だって驚いてた。ホントに目の前で花が宙に浮か
んだりしたんだ」
「じゃあ原因はなんですか?」
「……あの本もう読んだんだ? 私に聞くってことは」
頷く。
「まあ、知ってると思うけど、あたしの家って両親が仲良くないワケよ。今も別居
してるし。そんで小学4年生のころって、一番バチバチやりあってた時期なのよ。
家の中でも顔あわせれば喧嘩ばっかり。子どもの目の前で酷い口論してたんだか
ら。まるであたしがそこに居ないみたいに」
私のイメージの中で、シルエットの男と女がいがみ合っている。そしてその傍らに
は10歳くらいの少女が怯えた表情で身体を縮ませている。
「超能力だか心霊現象だか知らないけど、たぶん原因はあたしなんだろうと思う。
今となっては、だけど」
「じゃあ。どうやってそれが収まったんですか」
67 師匠コピペ2 sage 2008/10/27(月) 10:15:19 ID:SNTEH34B0
268 怪物 ◆oJUBn2VTGE ウニ 2008/08/03(日) 01:46:43 ID:ScuN9+/G0
「昨日言わなかったっけ? 祈祷師が来たの。家に。そんで、ウンジャラナンジ
ャラ、エイヤーってやったわけよ。そしたら変なことはほとんどなくなったな」
「祈祷師がポルターガイストを鎮めたんですか」
「……なんかいじわるになったね、あなた。分かってるクセに。たぶん、満足した
んだと思うよ。あたしが。『親がここまでやってくれた』って。今でも覚えてる
もん。両親が二人とも、祈祷師の後ろで必死になって手を合わせて拝んでんの。
それで、お祈りが終わった後にあたしの頭を抱いて『これで大丈夫だ』って二人
して言うの。それであたしもなんだかホッとして、ああこれで大丈夫なんだ、っ
て思った。最初は二人ともラップ音とか、お皿が割れたりしたこととか、なんで
もないことみたいに無視してたのよ。気味が悪いもんだから、気のせいだ、見て
ない、聞いてないってね。それをきっとそのころのあたしは、自分を無視された
みたいに感じてたのね。だから余計に酷くなっていったんだと思う」
結局、思春期の子どもが起こすイタズラと同じなのだ、と私は思った。
自分を見て欲しくて、構って欲しくて、とんでもないことをしでかすのだ。それで
怒られることが分かっていながら、しないではいられない。それはアイデンティテ
ィの芽生えと深く関係している部分だからなのだろう。自分が自分であるために、
身近な他者の視線が必要なのだ。
「どうしてこんなことが気になるの」
先輩の目が私の目に向いている。
先輩もこの街を騒がせている怪現象の噂くらい聞いているだろう。それが、たった
一人の人間が焦点となっているポルターガイスト現象なのだと聞かされたら、笑う
だろうか。
私はそれに答えないまま、別のことを言った。
「先輩が見たっていう怖い夢は、もしかしてお母さんを殺す夢ですか」
空気が変わった。おっとりとして優しげだった目元が険しくなる。
「どうして知ってるの」
その迫力に呑まれそうになりながら、私は言葉を繋ぐ。
「先輩が言っていた、『ありえない夢』って、別居していていないはずのお母さん
を、家の玄関で刺し殺す夢だったんでしょう」