師匠シリーズ
怪物 「結」

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92 師匠コピペ25 sage 2008/10/27(月) 11:12:44 ID:SNTEH34B0
331 怪物   ◆oJUBn2VTGE ウニ 2008/08/03(日) 22:48:13 ID:ScuN9+/G0

「……行ってはいけない」
この声は。
そう思った瞬間、脳の機能が再起動を始める。
間崎京子だ。この向こうにいるのは。
「鉱物の中で眠り、植物の中で目覚め、動物の中で歩いたものが、ヒトの中でなに
 をしたか、わかって?」
冷え冷えとした声が、ノイズとともに響いてくる。
「何故だ。どうやってここに掛けた」
沈黙。
「お前も見たのか。あの夢を。行くなとはどういうことだ」
コン、コン、コン、とせせら笑うような咳が聞こえる。
「……その電話機の左下を見て」
言われた通り視線を落とす。そこには銀色のシールが張ってあり、電話番号が記さ
れている。この電話機の番号だろうか。
「みんな案外知らないのね。公衆電話にだって、外から掛けられるわ」
その言葉を聞きながら、私は頭がクラクラし始めた。思考のバランスが崩れるよう
な感覚。この電話の向こうにいるのは、生身の人間なのか? それとも、人の世界
には属さないなにかなのか。
「夢を見て、あなたがそこへ向かうことはすぐに分かったのよ。そしたら、その電
 話ボックスの前を通るでしょう。一言だけ、注意したくて、掛けたの」
「どうして番号を知っていた」
「あなたのことなら、なんでも知ってるわ」
あらかじめ調べておいたということか。いつ役に立つとも知れないこんな公衆電話
の番号まで。
「行ってはいけない。わたしも、少し甘く見ていた」
「なにをだ」
再び沈黙。微かな呼吸音。
「でもだめね。あなたは行く。だから、わたしは祈っているわ。無事でありますよ
 うにと」
通話が切れた。

93 師匠コピペ26 sage 2008/10/27(月) 11:13:56 ID:SNTEH34B0

334 怪物   ◆oJUBn2VTGE ウニ 2008/08/03(日) 22:53:57 ID:ScuN9+/G0
ツー、ツー、という音が右耳にリフレインする。
私は最後に、言おうとしていた。電話を切られる前に、急いで言おうとしていた。
そのことに愕然とする。
いっしょにきて。
そう言おうとしていたのだ。
頼るもののないこの夜の闇の中を、共に歩く誰かの肩が、欲しかった。
受話器をフックに戻し、電話ボックスを出る。
少し離れた所にある街灯が、瞬きをし始める。消えかけているのか。私は自転車の
ハンドルを握る。
行こう。一人でも、夢の続きを知るために。
自転車は加速する。耳の形に沿って風がくるくると回り、複雑な音の中に私を閉じ
込める。
振り向いても電話ボックスはもう見えなくなった。離れて行くに従って、さっきの
電話が本当にあった出来事なのか分からなくなる。
何度目かの角を曲がり、しばらく進むと道路の真ん中になにかが置かれていること
に気がついた。
速度を緩めて目を凝らすと、それはコーンだった。工事現場によくある、あの円錐
形をしたもの。パイロン、というのだったか。
道路の両側には民家のコンクリート塀が並んでいる。ずっと遠くまで。アスファル
トの上に、ただ場違いに派手な黄色と黒のコーンがひとつ、ぽつんと置かれている
だけだ。当然、向こうには工事の痕跡すらない。誰かのイタズラだろうか。
その横をすり抜けて、さらに進む。
500メートルほど行くとまた道路の真ん中に三角のシルエットが現れた。またコ
ーンだ。
避けて突っ切ると、今度は10秒ほどで次のコーンが出現する。通り過ぎると、ま
たすぐに次のコーンが……
それは奇妙な光景だった。

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