師匠シリーズ

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264 鋏  ◆oJUBn2VTGE ウニ New! 2007/08/22(水) 23:08:04 ID:B6d5URPx0
大学3回生のころ、俺はダメ学生街道をひたすら突き進んでいた。
2回生からすでに大学の講義に出なくなりつつあったのだが、3年目に入り、
まったく大学に足を踏み入れなくなった。
なにせその春、同じバイトをしていた角南さんという同級生にバイト先にて「履
修届けの締め切り昨日までだけど、出した?」と恐る恐る聞かれて、その年の留
年を早くも知ったというのだから、親不孝にも程があるというものだ。
では大学に行かずになにをしていたかというと、パチンコ、麻雀、競馬といった
ギャンブルに明け暮れては生活費に困窮し、食べるために平日休日問わずバイト
をするという、情けない生活を送っていたのだった。
大学のサークルには顔を出していたが、一番仲の良かった先輩が卒業してしまい、
自然に足が遠のいていった。
その先輩は大学院を卒業して、大学図書館の司書におさまっていた。
この人が俺に道を踏み外させた張本人と言っても過言ないのだが、まさかこんな
にまともに就職してしまうとは思わなかった。
俺が大学に入ってからの2年間、あれだけ一緒に遊び回っていたのに、片方が学
生でなくなってしまうと急に壁が出来たように感じられて、自然と距離を置くよ
うになった。
職場の仲間や、ギャンブル仲間・バイト仲間という、それぞれの新しい世界を築
いていく中で、オカルト好きという子供じみた共通項でかろうじてつながってい
るような関係だ。
思い返すとそのころの彼は、つきあっていた彼女も学部を卒業し県外に就職して
しまっていたせいか、妙に寂しげに見えたものだった。

梅雨が明けたころだっただろうか。

265 鋏  ◆oJUBn2VTGE ウニ New! 2007/08/22(水) 23:10:12 ID:B6d5URPx0
以前よく顔を出していたネット上のオカルトフォーラムの仲間からオフ会のお誘
いがあった。ここも中心メンバーが二人抜けてからはまるで代替わりしたように
新しい人ばかりになり少し居辛さを感じて、あまり関わらなくなっていた。
午後8時過ぎ。集合場所は市内のファミレスだったが、俺は妙に緊張して店内に
入っていった。
「やぁ」
という声がした方に、昔からの顔なじみのみかっちさんという女性を見つけ、少
しほっとする。
同じ顔ぶれで何度も重ねたオフ会のような気だるい雰囲気はなく、新しい人の多
い、なんというかギラギラした空間があった。オカルト系のオフ会なんだから、
オカルトの話をしないといけない、という強迫観念めいた空気に、上滑りするよ
うなトークが絡んで、俺には酷く疲れる場所になってしまっていた。
その会話の中で、一際目立っている女性がいた。
積極的に話に加わっているわけではなかったが、周囲の男性陣がやたらと話しか
けている。その原因は明らかで、彼女がゴシック風の黒い服を着こなした美少女
と言っていい容姿をしていたからに他ならない。
俺にしても恋人がいなかった昔は、なにか起こらないかという、そういう下心を
持ってオフ会に参加したこともある。しかしいま、端から冷静にそういう光景を
目にしていると、ひどく間が抜けて見える。
その少女はそういう手合いに慣れているのか、淡々とあしらっていた。
しかし、かくいう俺もその容姿に別の意味で気が惹かれるものがあった。
どうも見覚えがある気がするのである。
すでに飲みほしたコーラのコップを無意識に口に運びながらチラチラと少女の方
を見ていたのだが、一瞬視線が合ってしまい、すぐに逸らしはしたものの気まず
さに「トイレ、トイレ」と我ながら情けない独り言をいいながら席を立った。

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