師匠シリーズ
怪物 「結」

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94 師匠コピペ27 sage 2008/10/27(月) 11:16:18 ID:SNTEH34B0
337 怪物   ◆oJUBn2VTGE ウニ 2008/08/03(日) 22:57:27 ID:ScuN9+/G0

人影もなく、誰も通らない深夜の住宅街に、何らかの危険があることを示す物が整
然と並んでいるのだ。だが行けども行けどもなにもない。ただコーンだけが道に無
造作に置かれている。
段々と薄気味悪くなって来た。あまり考えないようにして、ホイールの回転だけに
意識を集中しようとする。
だが、その背の高いシルエットを見たときには心構えがなかった分、全身に衝撃が
走った。
今度はコーンではない。細くて長く、頭の部分が丸い。道でよく見るものだが、
それが真夜中の道路の真ん中にある光景は、まるでこの世のものではないような違
和感があった。
『進入禁止』を表す道路標識が、そのコンクリートの土台ごと引っこ抜かれて道路
の上に置かれているのだ。
周囲を見回しても元あったと思しき穴は見つからない。いったい誰が、そしてどこ
から運んで来たというのか。
ゾクゾクする肩を押さえながら、『進入禁止』されているその向こう側へ通り抜ける。
これもポルターガイスト現象なのか?
しかしこれまでに起きた怪現象たちとは、明らかにその性質が異なっている気がす
る。石の雨や、電信柱や並木が引き抜かれた事件、中身をぶちまけられる本棚やビ
ルの奇妙な停電などは、”意図”のようなものを感じさせない、ある意味純粋なイタ
ズラのような印象を受けたが、この道に置かれたコーンや道路標識は、その統一さ
れた意味といい、執拗さといい、何者かの”意図”がほの見えるのである。
く・る・な。
その3音を、私は頭の中で再生する。
ポルターガイスト現象の現れ方が変わった。それが何故なのか分からない。現れ方
が変わったと言うよりも、「ステージが上った」と言うべきなのか。これでは、R
SPK、反復性偶発性念力などという代物ではない。もっと恐ろしいなにか……
私は吐く息に力を込める。目は前方を強く見据える。怖気づいてはいけない。
ビュンビュンと景色は過ぎ去り、放課後に訪れたオレンジの円の中心地である住宅
街へ到着する。結局、道路標識はあれ以降出現しなかった。言わば最後の警告だっ
た訳か。

95 師匠コピペ28 sage 2008/10/27(月) 11:18:24 ID:SNTEH34B0

340 怪物   ◆oJUBn2VTGE ウニ 2008/08/03(日) 23:01:58 ID:ScuN9+/G0
私は夜空を仰ぎ、月の光に照らされたビルの影を探す。
この街で一番高い影だ。
そして月がそのビルに半分隠れるような視点を求めて、息を殺しながら自転車をゆ
っくりと進める。
動くものは誰もいない。ほとんどの家が寝静まって明かりも漏れていない。様々な
形の屋根が、黒々とした威容を四方に広げている。
やがて私は背の低い垣根の前に行き着いた。街にぽっかりと開いた穴のような空間。
向こうには銀色の街灯が見える。遮蔽物のない場所を選んで通るのか、風が強くな
った気がする。
公園だ。
私は胸の中に渦巻き始めた言いようのない予感とともに、自転車を入り口にとめ、
スタンドを下ろしてから公園の中に足を踏み入れた。
靴を柔らかく押し返す土の感触。銀色の光に暗く浮かび上がる遊具たち。見上げて
も月はビルに隠れていない。ここではない。けれど今、私の視線の先には、街灯の
下に立つ二つの人影があるのだ。
ごくり、と口の中のわずかな水分を飲み込む。
人影たちも近づいて行く私に明らかに気づいていた。こちらを見つめている複数の
視線を確かに感じる。
風が耳元に唸りを上げて通り過ぎた。
「また来たよ」影の一つが口を開いた。「どうなってるんだ」
ようやくその姿形が見えて来た。眼鏡を掛けた男だ。白いシャツにスラックス。ネ
クタイこそしていないが、サラリーマンのような風貌だった。神経質そうなその顔
は、30歳くらいだろうか。
「こんな時間に、こんな場所に来るんだから、私たちと同じなんでしょうね」
声は若いが、外見は50過ぎのおばさんだった。地味なカーキ色の上着に、スカー
ト。小太りの体型は、不思議と私の心を和ませた。
「あの、あなたたちは、なにを……」
そこまで言って、言葉に詰まる。

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