師匠シリーズ
田舎

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車が、ようやく止まった。
思ったより早く着いた。道がよくなったのだろうか。連れてこられたことしかない自分にはよくわからなかった。
「さあ降りとうせ」という伯父の声に、俺たちは外に出る。
見渡す限りの山の中だ。目を上げると、谷を隔てた山向こうの峰はなお高い。

339 田舎 中編  ◆oJUBn2VTGE ウニ New! 2007/08/23(木) 00:43:43 ID:pA3eqjtb0
思わず小さいころよくやった「ヤッホー」という声をあげたくなる。
そして懐かしい伯父の家が、ささやかな石垣の中の広い敷地に、昔のままで立っていた。
それは子供のころは、「おばあちゃんの家」だった。
高校1年生の時に祖母が亡くなるまでは。その時の滞在は、葬式のために慌しく過ぎてしまって、あまり印象が無い。
「ヘェヘェ」と疲れたような声を出して、リュウが足元を通り過ぎようとした。
ガシッと捕まえて、顔を両手でグリグリと揉む。
「こらおまえ、葬式ン時もいたか?」
されていることに全く関心が無い様子で、何も言わずにされるがままになっている。
「あらあらあら」
という甲高い声とともに、家の玄関から布巾で手を拭きながら伯母が出てきた。
その後は、久しぶりに会った親戚の子どもに対するごく一般的なやりとりが続き、連れの仲間たちの紹介を終えて、ようやく俺は伯父の家の畳の上に尻を落ち着けた。
「みんなお昼は食べたが?」という伯母の言葉に頷くと、「じゃあ晩御飯はご馳走にしちゃおき、体でも動かしてきぃ」と言われた。
それに適当に返事をし、あてがわれた部屋に荷物を置くと、とりあえず大の字になって、車内でずっと曲げっぱなしだった足を思う存分伸ばす。
さすがに田舎の家は広い。記憶の中ではもっと広かった。
2階建てのその家は、大昔に民宿をしていたというだけあって、部屋の数も多い。俺たち4人全員に一部屋ずつあてがっても十分足りたのだろうが、男2女2ということでふた部屋を間借りすることにした。
「広れェー」と言いながら師匠と二人でゴロゴロ転がったあとで、廊下を隔てた女部屋を覗いた。

340 田舎 中編  ◆oJUBn2VTGE ウニ New! 2007/08/23(木) 00:46:26 ID:pA3eqjtb0
襖の隙間に片目を当てながら、「おい」「どっちが広い」「おい、こっちの部屋より広いか」などという師匠の声を背中で受け流していると、いきなり中から現れた京介さんに「死ね」と言われながらドツかれた。
すごすごと部屋に戻ると玄関の方から若い男の声が聞こえた。
出て行くと、近所に住む親戚のユキオだった。
顔を見ると懐かしさがこみ上げてくる。子供のころは夏休みにこの家へやってくるたびに遊んだものだ。どうしてる、と聞くと「役場で、しがない公務員じゃ」と、はにかんだように笑う。そういえばたしか俺より2つ歳上だった。
「じゃ、今は昼休みじゃき、また晩にでも寄るわ」
ユキオはそう言って家にも上がらずにスクーターにまたがった。
どうやら仕事に戻った伯父が、道ですれ違いざまに俺が来てることを話したらしい。
時計を見ると、15時をだいぶ回っている。ずいぶんと大らかな昼休みだ。
「さあ、これからどうしましょうか」
4人で集まって、何をするか話し合った。
じっとしていると背中に汗が浮いてくる。男部屋は窓を大きく開け放ち、クーラーなどつけていない。「らしき」ものはあるが、スイッチを押しても反応はなかった。
「泳ぎに行きましょう」
という俺の意見に、全員が賛成した。
旅行に発つ前にあらかじめ、水の綺麗な川があるから泳げるような準備をしておいてくださいと伝えてあったので、一も二もない。
少し山を下るので、伯父の家の車を借りた。
向かう先に着替える場所がないので、部屋で水着に着替え、服を羽織って出かけることにした。
師匠が来た時とは別の白いバンのハンドルを握り、他の3人が乗り込む。

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