師匠シリーズ
田舎

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 ”念”の篭ったその首を箱に納めて術を掛け、犬神とする。その時、残された胴体は道に埋めたままとし、その上を踏みつけられることで犬の「念」は継続し、また強固なものになっていく。その道が人の行き来の多い、四つ辻であればなお理想的とされる」
「うっ」
思わず吐き気がして口を押さえた。
嫌な予感が頭の中でパチパチと音を立てているような気がした。

383 田舎 中編  ◆oJUBn2VTGE ウニ New! 2007/08/23(木) 01:44:45 ID:pA3eqjtb0
ユキオが原付に乗ってやって来たのは、朝の10時過ぎだった。
「おー、リュウ。お出迎えとは珍しいにゃあ」
そう言いながら、軒先に座っているリュウの頭を撫でた。俺も朝方、飯を食べにノソノソと犬小屋から這い出てきたリュウの顔をじっくりと観察したが、記憶のヴェールは「自信ないけど、リュウらしい」という程度にしか、真実に近寄らせてくれなかった。

「じゃあさっそく行こう」
ユキオが原付で先導し、俺たちは師匠の運転で伯父に借りた車に乗ってついていった。

最初京介さんが運転席に乗ろうとすると、師匠が「初心者マークは大人しく後ろに乗ってろ」というようなことを言って、「そっちも大した腕じゃないくせに」と言い返され、険悪なムードになりかけたことを言い添えておく。
ユキオの「先生」は、本当に学校の先生だったらしい。

ユキオは小学校の頃に教わったことがあるそうだ。定年になり、子供たちが独り立ちすると山奥に土地を買って住まいを構えて奥さんと二人で暮らしているとのことだった。

「こんな田舎で公務員なんてやってると、デントーってのを守る義務から逃げれんがよ」
出掛けにユキオはそう言ったが、神楽を習っていること自体はまんざら嫌でもない様子だった。
「先生はちょっと気難しいき、変なこと言うても気ぃ悪うせんとって下さい」
俺は幼い頃に見た白装束の太夫さんの神秘的な横顔を姿を思い浮かべた。
車は一度国道に出てから川沿いを走り、再び山側へ折れるとそこからは延々と山道を上って行った。

道は悪く、割れた岩のかけらのようなものがアスファルトの上のそこかしこに転がっ
ている。

386 田舎 中編  ◆oJUBn2VTGE ウニ New! 2007/08/23(木) 01:46:28 ID:pA3eqjtb0
「これって落石じゃないのか」と師匠はぶつぶつ言いながらも慎重に石を避けていく。
昨日より幾分日差しは穏やかで、車の窓を開けると風が入ってちょうどいい涼しさだ。
山の斜面に蛇の黒い胴体を見た気がして身を乗り出した時、後部座席のCoCoさんがふいに口を開いた。
「バイクから、離れない方がいい」

さっきまで隣の京介さんを意味なくくすぐって騒いでいたのに、一変して真剣な響きの声だったので思わず前方に視線をうつす。
ユキオを見失いそうになっているのかと思ったが、適度な距離を保ったまま車はついていけている。

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