師匠シリーズ
田舎

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「何をするために、何故その祈祷が選ばれるのか」
何をするためにというのは分かる。川で行われるなら水の神様を祭り鎮めるためで、家で行われるなら家の安泰のためだ。だが「何故」その祈祷なのか、という部分には天幕がかかったように見えてこない。
祈祷はさまざまな系統に分かれ、使う幣だけで数百種類もあるのである。

「よっしゃ、明日さっそく行こう」
ユキオは箸をくるくると回して俺たちの顔を見る。
師匠は願ってもない、と頷いた。京介さんは「頼みます」と軽く頭を下げる。

368 田舎 中編  ◆oJUBn2VTGE ウニ New! 2007/08/23(木) 01:26:22 ID:pA3eqjtb0
俺は明日も平日だったことを思い出し、ユキオをつついたが「大丈夫、大丈夫」と請合った。
いろいろと大丈夫な職場らしい。
ユキオとハツコさんたちが帰っていったあと、俺たちは順番に風呂に入ることにした。夜になってようやく涼しくなってきたが、汗を重ねた肌が気持ち悪い。
女性陣はあとがいいと言うので、まず俺、ついで師匠という順番で入ることにした。

早々に俺が風呂からあがり、3人でトランプをしているとTシャツ姿で頭から湯気を昇らせながら師匠が出てくる。
「あー、気持ちよかったー。風呂に入ったのって半年ぶりくらいだ」
その言葉に女性二人の目が冷たくなる。

「ちょっと」「寄らないでくださる」
ステレオで言われ、師匠は憤慨する。
「って、おい。僕はシャワー派なんだって」
弁解する師匠に冷たい視線を向けたまま二人は女部屋に戻っていく。

「知ってるだろ!」
わめく師匠に、振り向いた京介さんがいつもより強い調子で「死ね」と言った。
俺は笑いをこらえるのに必死だった。
これだよ。
二人を無理やりセットにした甲斐があったというものだ。
それから疲れていた俺たちは早々に床についた。

若者のいないこの田舎の家は寝付くのが早く、あまり遅くまで起きて騒がしくしても悪いという思いもある。

369 田舎 中編  ◆oJUBn2VTGE ウニ New! 2007/08/23(木) 01:27:35 ID:pA3eqjtb0
寝る前にリュウの顔を拝もうと思ったが、犬小屋に引っ込んでしまいお尻しか見えなかった。
部屋の明かりを消し、扇風機に首を振らせたまま横になるとあっというまに眠りに落ちた。

どのくらい経っただろうか。
バイクの音を遠くで聞いた気がして、なぜかユキオがまた来た、と思った。
そんなはずはない、と思いながら徐々に頭が覚醒し、むくりと起きる。腕時計を見ると深夜2時過ぎ。トイレに行こうと起き上がると、隣の布団がカラになっていることに気づく。「師匠」と小声で呼びかけるが、部屋のどこにもいない。

とりあえずトイレで用を足しに行くと、部屋に帰るときに縁側に誰かの影が映っている。

そっと障子を開けると、京介さんが縁側に腰掛けて夜陰に佇んでいる。
右手には煙草。
こちらに気づいて視線を向けてくる。
「深い森だ」
そうか。京介さんは自分の部屋でないと眠れないということを今更ながら思い出す。

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