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「おい」
怒るというより、溜息をつくような調子で師匠が咎める。
京介さんは、「よけいな物がよけいな物を招くんだよ」と言って横を向いた。
師匠は恨めしそうにバックミラー越しに睨んでいる。
前を行くユキオがハンドルから片手を離し、山側を指さした。
もうすぐ目的地だ。ということらしい。
まもなく俺たちは山の中にぽつんと立つ一軒家に辿り着いた。
伯父の家によく似た造りの日本家屋だ。広い庭に鶏を飼っている。
ユキオがヘルメットを脱ぎながら「せんせー」と家に向かって声をかけ、俺は後ろから近づいてその耳元に囁いた。
「なあ、さっき俺たちの車を見失わなかったか」
「いや」
ユキオは怪訝そうに首を振る。
そうだろうとは思った。おそらくあれは、俺たちの霊感に反応したのだろう。ユキオには何事もない山道にすぎなかったはずだ。
だが、俺たちが狙われたのは明らかだった。なにか、「警告」じみた悪意を感じたからだ。それは、京介さんが足から血を流したあの四つ辻で感じたものと同質のものだった。
俺は師匠の顔を見たが、首を横に振るだけだった。
なりゆきにまかせよう、というように。
393 田舎 中編 ◆oJUBn2VTGE ウニ New! 2007/08/23(木) 01:52:20 ID:pA3eqjtb0
「電話しといた例の人たちです」
ユキオが玄関の中に体を入れながら奥に向かって言葉をかける。
奥からいらえがあって俺たちは家の中へ招き入れられた。
畳敷きの客間に通され、その整然とした室内の雰囲気から正座して待った。
廊下がきしむ音が聞こえ、白髪の男性が襖の向こうから姿を現した。
ユキオの小学校の先生だったというので、もう少し若いイメージだったが、70に届こうという歳に見えた。
先生は客間の入り口に立ったままで室内を睥睨し、胡坐をかいているユキオを怒鳴った。
「おんしゃあ、どこのもんを連れてきたがじゃ」
「え」
と言ってユキオは目を剥いた。
俺は驚いて仲間たちの顔を見る。
先生は険しい表情をしたまま踵を返すと、足音も乱暴にその場から去ってしまった。
それを慌ててユキオが追いかける。
残された俺たちは呆然とするしかなかった。
しかし師匠は妙に嬉しそうな顔をしてこう言う。
「あの爺さん、どこのモノを連れてきたのか、と言ったね。そのモノはシャと書く”者”じゃなくて、モノノケの”物”だぜ」
あるいは、オニと書く鬼(モノ)か……
師匠はくすぐったそうに身をわずかによじる。
京介さんがその様子を冷たい目で見ている。
やがてもう一度襖が開いて、先生の奥さんと思しきお婆さんが静々と俺たちの前にお茶を並べてくれた。
395 田舎 中編 ◆oJUBn2VTGE ウニ New! 2007/08/23(木) 01:53:44 ID:pA3eqjtb0
「あの」
口を開きかけた時、ユキオを伴って再び先生が眉間に皺を寄せたままで現れた。入れ違いにお婆さんが襖の向こうに消える。