洒落怖
電車にて

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招かれてお宅にお邪魔した。結構古びた一軒家だったが、車二台入りそうな駐車スペースをはじめ、広々としていた。
居間にとおされたところで、線香の残り香が感じられた。仏壇はどこだと見渡して、閉じられたそれをみつけ、真っ先にそこに向かった。
開いてみると、生前のあかちゃんの屈託の無い笑顔の他に、あの旦那さんの顔写真もかざられていて、位牌が2つあった。
薄々、感じていたことだ。あの黒い靄は、明らかに、害する目的でいた。

「前回あったあとから、主人が、動く靄が見えるんだと喚くようになりまして」
「……そうですか」
奥さんの方は極力みないように、出された珈琲に口をつけた。結構良い豆をつかっているように感じられた。
少なくとも、セールで500g298円の格安豆に慣れた俺の味蕾には、高尚がすぎる。意訳するとさっぱり味の良さがわかりません。
「四人見えるとおっしゃいましたよね」

289 電車にて 11 sage 2011/09/20(火) 03:05:51.69 ID:MpJsRaLP0
「そうでしたっけ」
赤ちゃんの心を知ればこそだ。だからこそ鬼にならなければならないと思った。
気づいてもらえず、抱いても貰えず、呼んでも貰えず。このうち2つは俺が教えることで解消される。でも、抱きしめるのは無理だろう。
俺のように見えるようになるなら良いが、あれだけ人数がいて、見えたのは俺とゲイ人さんだけだったのだ。
奥さんが見えるようになるという前提で、教えるのは、奥さんを不幸にするだけだと思った。
そしてそれは、ママを慕う赤ちゃんにとっても、けして幸福なことではないとも思った。
自分が辛いことを言いたくないための言い訳に過ぎないかもとも思って、自分が嫌になりもした。
「確かに、後一人、赤ちゃんもと」
やはりきたかと、心は身構えた。
「ああ、そうでしたね」
「その赤ちゃんは…今は?」
「見えません」
嘘をつくとき、人はおもってもみない行動をする。
視線を避けてきたこの俺が、よりにもよって、嘘をいってないと証明するために、奥さんの目をまっすぐ見つめた。
奥さんはすぐに違和感に気づいた様子で、それを見て、おれが挙動不審であったことを理解した。自分の馬鹿を呪った。
「見えていらっしゃるんですね。では、先ほど泣いてらしたのは」
「それは、ですから、あの四人の黒い靄の子達が成仏したこ…」
俺の意識がそこに及んだ時、全身を悪寒が包んだ。母にすがりつくあかちゃんの一部が黒く霞む。
そのかすみがかった源泉をたどって、俺はまたも、あの黒い人形のもやをみた。四人。いや、四匹だ。そう呼ぶべきだと思った。
悪いが、俺はこの奥さんに同情していた。この赤ちゃんにだってそうだ。
俺の、鈍い勘が、この四匹が、あの男と、赤ちゃんの死に関わっているとささやいていた。
不幸を呼ぶものに違いないと、先入観まみれで結論づけた。

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