洒落怖
電車にて

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279 電車にて 5 sage 2011/09/20(火) 02:30:36.82 ID:MpJsRaLP0
「一つの体に魂一つ。これが原則なんだよ。ツカレルってのはツカレルもんなんだ」
「ええと」
「取り憑かれるってのは、疲労するってことだよ」
「ああ…」
「世間一般でいう霊障とかよか、おっそろしいぞ。
なんせ、一度受け入れたら目には見えない、自分じゃ気づくこともできない。んで疲れまくる」
「……どうしたらいいんでしょうか」
「しんじんは?」
「しんじん?」
「信仰でもいいや」
「ああ、信心か。クリスマスには似非クリスチャンで、正月には似非神道、普段から何も信じてません」
「じゃ、心を強く持つんだな」
「え?ちょっと…」
何やら、医者に匙投げられたような感。
「いや、俺もそんなかんじだし。携神様とかいりゃその教えを頭の中で唱えろとかいうんだけどさ」
「ああ。投げやりにってわけじゃないんですね」
「とにかく、あんたはほんと気をつけた方がいい」
巨漢はこういって、肩をぽんぽんと叩いて立ち去った。
「良かったらもう少し詳しくご教授ねがえませんか」
そういってみると
「それはやめとくわ。実は俺ゲイなんでな。あんた、良い男だからさ。あんまり一緒にいるとその気になっちまうよ」
「てっきり霊能者かと思いましたが、ご職業はゲイ人でしたか」
「うははは。こりゃ傑作だ。そうそうそんなかんじで明るくしてりゃ大丈夫。じゃあな」
「陽気は妖気を打ち消すって考えでいいんですね」
「あっはははは。今度からそれ使わせてもらうわあ」

280 電車にて 6 sage 2011/09/20(火) 02:35:04.03 ID:MpJsRaLP0
四日目。この日、本当に必要なものは、必要なときにはないのだと俺は思い知った。
最初にあの夫婦とあってから、一冬を越し、春になっていた。
その顔を見た時点で、半ば反射的に立ち上がった。
「どうぞ」
「え? ああ。お久しぶりです」
奥さんが、こちらをぼんやりと見上げた。そして、ほんの少し微笑みかけてきた。
なんだか生気がない。
「あれ…」
奥さんは赤ちゃんを抱いてもいなかったし、乳母車もなかった。
「車内で…する話ではないので」
俺が何を言いたいかを察して、旦那さんが機先を制した。
奥さんの顔をみやると、奥さんがきゅっと唇を噛んだのが見えた。
死んだのだ、と直感的に思った。
その途端、スラックスの裾を、スーツの袖を引く感触がまざまざと感じられた。
いるはずのないものだ。隣には、両隣には他のお客さんが座っている。
袖なんてひかれるはずがない。でも、その感触がする。
おそるおそるみてみると、服はなんともなってない。なのに腕がゆらゆらと引かれる感触に従って動く。
異変はそれだけではおさまらなかった。袖を引く力が、俺の前方へと引きずるようなベクトルへと変わった。
「…っ…」
全身総毛立っていた。何かとんでもないことになってる。
もしかして、子供たちか?明るく明るく。ファーンキーヒャッッハーと頭の中で叫ぶ。
俺の意識が子供たちへと向いた瞬間に、見えた。
一人を除いて、全員灰色のぼやけた靄のようだ。子供だとわかるのはその背丈から。
残る一人は、俺の膝の上にいた。白い。輪郭がそれと教える。赤ん坊だ。

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