洒落怖
電車にて

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277 電車にて 3 sage 2011/09/20(火) 02:23:28.04 ID:MpJsRaLP0
三日目。この時の俺は、かなり不機嫌だった。
讒言めいた告げ口で、常務からの呼び出しを食ったせいで、残業するはめになったからだ。
常務には、外回り中にサボりなんてやっていないと理解してもらえたが、奮然たる思いは残っていた。
ムカムカとした気分でいると、上石神井に着いた。
また、あの夫婦が見えた。よく会うなと思いながら、振り返ると、見れば階段すぐ側の立地だ。
よくよく考えてみると、このご夫婦も結構周りに配慮がない。
乳母車や赤ちゃんがいるなら、駆け込み乗車の多い階段側は避けるべきだ。
それが、ひいては、赤ちゃんの身の安全も守る。
すぐに声をかけた。
「席、お譲りしますよ」
「え?ああ…ご縁がありますね」
少々考えが足りないところがあるが、ご主人はとてもさわやかな笑顔を浮かべた。
そして立ち上がろうとした時、俺は、またも、気分が悪くなった。
肩が重くなり、首筋から脳天にかけて痛みが駆け登っていく。
奥歯まで痛みだして、なんだか、テレビでみた、血管系の病の症状にもにていた。
まさかひょっとしてと思いながら、俺は、人を押しのけてこっちにやってくる、巨漢をみつけた。
巨漢は俺の肩をばしっと叩いた。
「おい、気分悪そうだぞ」
巨漢がこう言う頃には、叩かれた瞬間から嘘のようにあの変な痛みと苦しさがひいていた。
「ひょっとして、またですか?」
旦那さんが心配そうに言うが、なんともない。
「いえいえ。今日ちょっと仕事場で嫌なことがありまして。人相、悪くなってたのかもしれません。
元の出来が悪いからなおさらみなさんに心配かけてしまうんですよ。ははは」
「そ、それは笑っていいのやら」
「いつもありがとうございます」
奥さんがうれしそうに微笑みながら、俺の空けた席に腰掛けた。
巨漢は、赤ちゃんをみて、太りすぎて腫れぼったい眼のために、悪人面となった顔をたちまち崩した。
奥さんが慈愛のこもった眼差しで見るのを、嬉々として見つめた後、旦那さんを見て、すっと表情をひきしめた。
この変化を俺は、変だと感じ取っていた。

278 電車にて 4 sage 2011/09/20(火) 02:28:03.41 ID:MpJsRaLP0
巨漢は、小平で下りた。俺はまだ先だったが、巨漢に続いて下りた。
「あの…」
「あの旦那さんにはかかわらないほうがいいよ」
「え?」
「ありゃ、相当なろくでなしだ」
「…実は前にも席を譲ろうとしたら、倒れてしまって…」
「あんた優しい人だろ」
「いや、そうでもないですよ」
そう言いながら、疲れてる時でも、自然と席を譲ろうとする変な習性のことも思いだした。
でも、それは優しいとは違うような気がした。なのであらためて首を左右に振った。
「優しくなんて」
「まあいいや。俺の目にはな。あんたの霊体の、髪の毛やら服やらひっぱる、四人の子供が見えたんだよ」
「は?」
ぞくっとした。そういえば、ありもしない足を見ていた。
「奥さんの方は、ありゃ嘘がないな。けどあの旦那さんは、ありゃ相当曲者だよ。やつ憑かれてて、しかもタフだから周りに迷惑かける」
「私には、とてもそんな風には」
そう言いながら、前に見た足を思い出して、語尾が震えた。
「憑かれてる理由も大方あの亭主が、あの子供達になんかやったからだな。性別もわからないくらいにぼやけてたし。
多分ありゃ水子だな。大方、女遊びしまくった挙げ句に方方で堕ろさせでもしたんだろう」
「……足が」
「足?」
「最初に倒れた時、足が見えて」
「そりゃいけないな。あんた、優しいから、受け入れかけてるんだ」
「受け入れる?」

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