洒落怖
電車にて

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275 電車にて 1 sage 2011/09/20(火) 02:18:35.84 ID:MpJsRaLP0
会社帰りの体験談
全部で五日間。実体験を100%増量で事実と捏造半々でお届けします。

一日目。この日は前日からの残業が早朝まで続き、仮眠をとってまた仕事というハードワーク明け。ふらふらだった。
椅子に座れた幸運を喜びながら、梅雨時に缶詰で臭う自分の体臭に辟易としていた。
俺の下車駅まで、あと10いくつだかある頃に、乳母車を抱えた女性とその旦那さんが、混雑した車内に入ってきた。
さっと立って席を開け、どうぞと手で席を指し示した。少しやつれてみえたからか、遠慮されてしまった。
すると、すぐ斜め前にいた中学生位の子が、やっと、ありがとうございますと言いながら
赤ちゃんを抱き上げて、席に座ろうとした奥さんの目の前で、嫌がらせのようにどかりと座った。
車内に、なんとも言えない空気が漂った。
こいつ、マジかよ。何やってんだ。最低。
そんな視線がその子に集まり、幾人かはきつい視線を送ったあと、自分だけではないことを周りを見渡して確認していた。

その中学生とおしゃべりしていた友達らしき子が凄く恥ずかしそうにしながら
「おい、お前何やってんだよ」
「何って、座ってんだよ」
「いいから立てって」
「座りたいんだよ」
返事は妙に間延びしてた。表情は空白。
普通本気で嫌味でやるつもりだったら、悪意の一つも表情に浮かぶんだが、それがないことが逆に不気味だった。
結局、俺が座っていたのと反対側に座っていた、五十代位の女性が、こっち、こっちさおいでなさいと夫婦を招き、奥さんに席を譲っていた。

二日目。日照りのきつい日の夜。俺はこの時は結構元気だった。
同僚と飲んだ帰りで、新宿にいたので、西武新宿から電車に乗った。
日本見過ごし、がらんとした車内の、どの席も選び放題の最前列にならべた。
上石神井の手前で、見覚えのある夫婦が乗ってきた。またも、車内は混雑していた。
今日は、以前よりも、爽やかに席を譲ろうと思った。

276 電車にて 2 sage 2011/09/20(火) 02:20:36.40 ID:MpJsRaLP0
「そこのご夫婦さん。席お譲りしますから。どうぞ」
そういって笑顔で立ち上がろうとした瞬間。頭をガツンと殴られたような衝撃が襲った。
わけがわからなかった。何にもぶつけてない。
急速に息苦しくなって、目の前の人がつかっていたつり革にすがるように手を伸ばした。
訝しげで、迷惑そうな表情をされた。でも、膝ががくんと力を失ってしまうと、指先からも力が抜けた。
まったくわけもわからないまま、意識がはっきりした状態で、俺は倒れた。
倒れこんだところで、俺の頭をまたぐ、足が見えた。一瞬だが確かに見えた。
車内は騒ぎになった、周りじゅうの人が俺を気遣ってくれた。
席を譲ろうとして立ち上がったら、いきなり倒れるなんて、なんて後味の悪い真似を、ご夫婦にしてしまったんだろう。
申し訳なく思いながら、ご夫婦に済みませんといった。旦那さんは、俺の顔をみて、あ、と一言発した。
どうやら前にも席を譲ろうとしたことを覚えていたようだった。
「いえ、こちらこそ。立ちくらみですか?急に立ち上がるとなりますよね」
凄くさわやかな好青年といったかんじだ。渋さも併せ持ったバリトンがとても心地よかった。
俺は立ちくらみということにして、大丈夫ですと周りの方々に謝罪と感謝を述べた。
この時は、俺の隣にこしかけていた、女子大生ぽい方が立ち上がって、奥さんに席を譲ろうとした。
すると、息苦しさと、ずきずきと痛む頭が嘘のように楽になった。
足が見えていた俺は、咄嗟に女子大生風の子を見上げた。彼女はなんともない様子だった。
奥さんと俺と俺が腰掛け、目の前の方が場所を譲って下さったので、旦那さんと女子大生さんが並んだ。
さっきはびっくりしました、という女子大生のとても可憐な声が聞こえた。
そういえば、倒れそうになったとき、腰をおもいきり支えようとしてくれたことを思い出した。
それとともに、やわらかいものが腰に触れた感触が蘇ってきた。
ごめんなさい。優しいお嬢さん。俺は、結構野獣なんです。性的な意味で。

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