師匠シリーズ
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124 ビデオ 後編  ◆oJUBn2VTGE ウニ 2009/02/22(日) 22:25:57 ID:vbLvaS0Q0
あっさりとさじを投げた師匠に拍子抜けして、溜息をつく。
「死んでみなければ分からないことがあるってことだ」
まあ、良かったじゃないか。同じように『見てしまった』ビデオの中の彼らは、想像するだに恐ろしい運命を辿ったかも知れないのに、僕らは無事だったんだから。
「これも日ごろの行いの賜物だ」師匠は冗談めかして言う。「もっとも、死体に触れていたらこんなものでは済まなかっただろうけど」
日ごろの行いがどう転んだのだか知らないが、そう言えば、呪いの矛先は俺にばかり向いていた。一緒にビデオを見たはずの師匠に何ごとも起こらなかったのは何故なのか。
それからビデオについて警告してきたということは同じく中身を見ていたはずの黒谷という師匠の知り合いも、まるで平然としていた。納得がいかない。
ぶつぶつと言うと師匠は鼻で笑い、「僕と、あのオッサンは手ごわいからな」と言い放った。
「どっちが、より手ごわいんですか」と聞いてやると、平然と自分を指差している。
しかし少なくとも、スタンスの違いはあるらしい。
後日師匠の部屋でごろごろしている時にそれに気づいた。
師匠が近くのコンビニへ買出しに行っている間、何気なく棚の上を眺めていると一枚の便箋を見つけたのだ。
それはボールペンで書かれていて、中には何度か訂正した跡があり、清書前の下書きのようだった。
あのビデオを、片方は供養もせずに売り飛ばした。そしてもう片方はいろいろやってみるだけの好奇心というのか、興味というのか、そういうものがあるようだった。
便箋はこういう書き出しで始まる。

127 ビデオ 後編 ラスト ◆oJUBn2VTGE ウニ 2009/02/22(日) 22:29:25 ID:vbLvaS0Q0

前略(という文字を消した跡がある)

 突然のお手紙、申し訳ありません。私は五年前にそちらで弔っていただいた行旅死亡人の家族です。こちらの名前と居所はどうかご容赦ください。
 私はつい先日その事実を知り、電車を乗り継いですぐにもそちらへ伺おうと考えました。
 ですが、五年も経っていること、そして荼毘に付していただき、今は安らかに眠っているだろうことを思うと、その故人を起こしてまでこちらで引き取るということが、良いことなのか分からなくなりました。
 悩んだ末に、筆だけを取らせていただきます。
 身勝手なお願いで心苦しいばかりですが、故人をどうかそのまま眠らせてあげてください。遺品も、出来れば遺骨と一緒に弔っていただければ幸いです。
 私は会いには行くことは出来ませんが、遠くから心よりの冥福を祈っております。
 本来ならば拝眉のうえご挨拶を申し上げるところ、略儀ながら書中をもってお礼とお詫びを申し上げます。
                               草々(消した跡) 
某年某月某日

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