師匠シリーズ
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684 ビデオ 前編  ◆oJUBn2VTGE ウニ 2009/02/08(日) 01:33:01 ID:3TBJnZvS0

生存していたら救急隊員が到着するまで担架に乗せるなどして保護するが、全身バラバラになっているような場合は出来る限り体のパーツを集めて白い布で覆っておく。そうした即死状態の場合は、あとで交通鑑識の現場検証があるまで救急隊のほうで引き取ったりはしない。
そんな死体のそばにいるのは本当に気持ちが悪く、早いところ警察が来てくれるのを祈ったものだった。
……そんなことを北村さんはやけに楽しそうに話す。
「特に停車駅だと減速しているから、スパッといかないのよ。巻き込まれてぐちゃぐちゃ。そんな時はこう、バケツいっぱいに肉を、つまんでね、金バサミで、入れていくわけよ。いや、あれはホントに肉料理は無理だったぁ。にさんにち」
身振り手振りが大きすぎたのか、「喋る間に、手を動かす」と後ろから怒られた。店長も頭が上がらないバイトのおばちゃんだ。
仕方なく、後片付けをすべて終えてから控え室でもう一度北村さんに話しかける。
「前原駅? あんまりそっちは知らないなぁ」
俺は、師匠と見たビデオの事故のことを説明した。大した期待をしたわけではない。元駅員の立場から、なにか知っていることがないかと軽い気持ちで聞いたのだ。
すると北村さんはなにかを思い出した顔をして、肩をすくめると、そっと俺の耳に口を寄せてきた。
「サトウイチロウを片付けたら呪われる」
ひそひそとそんな言葉が耳に入る。俺は思わず体を硬くする。
「そんな噂があったのよ」
顔を離すと、一転して明るい口調に戻り、眼鏡をずり上げる。
「あっちの方のエリアで、人身事故が多かったらしくてね。それも身元不明の。なんとかっていうらしいね。無縁仏、じゃない、なんか難しい言い方。まあその無縁仏、仏さんの死体を片付けたら、なんか良くないことが起こるって噂が広がってたらしいよ」
噂と言っても、駅関係者の間でだけひっそりと口伝えされる、裏の話だ。
「サトウイチロウって、なんなんです」

688 ビデオ 前編  ◆oJUBn2VTGE ウニ 2009/02/08(日) 01:35:56 ID:3TBJnZvS0

「ほら、無縁仏だったら、さ、名前も分かんないじゃない。だから、みんなサトウイチロウ」
業界用語というやつか。一般人には分からない隠語なわけだ。
映画界では監督が撮影中に降板した場合など、アラン・スミシーという偽名がクレジットされることがあるそうだ。ふとそれを思い出した。
「どんな呪いがあるんですか」
北村さんは、腕組みをして必死で思い出そうとしていたが、最終的に二カッと笑うと「忘れた」と言った。
かわりに、その噂のことをよく知っている先輩が市内に住んでいるから、知りたければ話を聞きに行くとよい、と教えてくれた。
「もう引退してるから、多分話してくれると思うよ。日本酒を持っていけば」
俺はその住所を聞いてから、お礼を言った。もうみんな帰ってしまって、仕事場は俺たちだけになってしまっていた。
腰を上げながら、北村さんは言った。
「オバケの話が好きなんだねぇ。ここにも出るらしいよ。まえ、ここが食堂だった時に、バイトのおばちゃんたちが見たって」
俺はなにも感じなかったけれど、話を合わせて首をすくめた。

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