洒落怖
佇む女

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「晴れているし、いたって怖くないさ」と自分を励まし、その道を通った。
果たして、女はいた。
川を覗き込むようにして立ち、ブラウス、スカート、帽子と、いつもと同じだった。
Uは突然、この道を一人で通ろうと思ったことを後悔した。

女の髪は長く、背中の半ばほどまである。微妙にぱさぱさした髪で、
顔にかかった髪と帽子のせいで、表情はまったくうかがえない。
ブラウスから覗いた手や、スカートから伸びる脚には、血の気がほとんどなかった。
土気色だった。青茶色い感じの色で、それに気づいた途端、Uはさらに動揺した。

これまでのように、女を無視して通り過ぎようと思うのだが、
どうしてもちらちら見てしまう。
見れば見るほど、女が生きた人間なのか、それともそうでないのか、よくわからなくなった。
かかわってはまずい、と本能的にわかるのだが、なぜか視線をそちらにやらずにはいられない。

Uはなるべく足音を立てないようにしながら、それでいてできるだけ急いで、
そこを通り過ぎた。
身体の震えが止まらず、吐き気までする。
気のせい、気にしすぎ、と自分に言い聞かせるが、まったく効果がない。

406 5/15 sage New! 2008/10/30(木) 10:58:25 ID:tl4Q/2/Z0
Uが駅に辿り着くと、級友たちはすでに集まっていた。
Uの目には、くだんの『女』を見に行く期待にはしゃいでいる級友たちが、
異次元の存在のように見えたそうだ。
今さらだが、Uは強く、「行くのをやめないか」と提案した。

級友たちは、最初、笑い飛ばそうとした。
それから、Uの尋常ではない怯え振りに引いたらしい。
最終的には、怒り出した。
『楽しい気分』に水を差されたのだから、まあそんなものだろう。
「電車賃使って来てるんだからさー、しらけるようなこと言うなよな」
「つかお前マジでびびってんの?」等、容赦ない言葉を浴びせられる。
Uは押されるようにして、『女』のいる場所に案内することを強要させられた。

どうにでもなれ、あの女を見たら笑っていられなくなる。
Uはそんな気持ちで、『女』の元へと級友たちを案内した。
あの道に近づくにつれて、再びUの気分は悪くなって来た。
やがて、道は川に沿って進むようになり、あの女が見えて来る。
Uは級友を振り返り、「ほら」と、目線で報せた。

恐ろしかったので、女からはかなり遠い位置で合図した。
が、周辺には特に通行人もおらず、ぱっと見てその女がおかしいのは、
遠目にも明らかだ。

級友たちはきょとんとしていた。「どこ?」などと、周囲を見回している。
Uはいらだって、「あそこだよ、ほら、いるだろ女が」と軽く指さした。
女は相変わらず、猫背気味に川を覗き込んでいる。

Uは不意に愕然とした。
級友にはあの女が見えていないのだ、と、突如悟ったからだ。
その証拠に、「なあ、どこだよ……」などと、まばたきしている始末ではないか。
Uは必死になって、「あそこだよ、見えるだろ?」と主張した。

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