洒落怖
押入れの姉

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僕はあまりの恥ずかしさに涙を浮かべて耐えていました。
胸元や首筋を調べられるとき、きめ細かい肌や薄桃色の唇が迫るたび、押入れの中での一件が
思い起こされ、理解不能な感情に陥りました。

だから、姉が腑に落ちないという顔で僕から離れたときも、開放されたという思いだったのか、
それとも倒錯の時間が終わってしまったことを悔やんでいたのか、よく覚えていません。

「おかしいわ……見当たらない」

姉は思案顔のまま押入れの前まで行き、僕に背を向けた状態で「カゲシロもなく出てこれるはずが……」
と、また独り言を繰っていました。
まだ物事が落着していないことを肌で感じた僕は、服も着れないでじっと姉の反応を待ちます。

906 「押入れの姉」 sage 2010/09/09(木) 16:13:55 ID:KzzABe100
ややあって、姉がはじかれたように顔を上げると、早足で僕のほうに歩み寄ってきました。
そのとき僕は愚かにも……なぜか下半身にまとった最後の砦を奪われるような気がして、
情けない悲鳴を上げてしゃがみこみました。

「動かないで、じっとして」

股間をかばうようにしてうずくまる僕の頭に、そっと姉の手が載せられました。
どうやら、今度は僕の頭髪を調べているようです。
……僕は赤面しているのを知られまいと必死でした。
頭を撫でるようにまさぐっていた姉が、

「あった……! ちょっと抜くから、我慢して」

プツン
さして痛くもありません。
どうやら毛を一本、引き抜かれたようでした。
しかし姉の持つそれを見て、僕はギョッと目を見張りました。

長いのです。
ゆうに僕の頭からひざ下に届きそうな一本の黒髪。
もちろん、そんな毛が生えていたことなどまるで知りません。
これだけ長ければ洗髪のとき自分で気づくか、あるいは家族や身の回りの人間がすぐに
指摘するはずなのですが。

「……小ざかしい」

そうつぶやく姉の目は、まさに鼠を掌中にした猫のそれでした。
やおら眼前でその髪を伸ばすと、赤い舌でツゥー……と舐めてから、はじめて笑みを
浮かべていました。
美しい、けれど残酷さを漂わすその微笑を見て、姉の中でなにかが解決したのだということを、
僕は感じ取っていました。

907 「押入れの姉」 sage 2010/09/09(木) 16:16:18 ID:KzzABe100
「服を着たら、ちょっとお姉ちゃんの電話に付き合ってくれないかな?」

そう言う姉はすでに、いつものしとやかで愛らしい女の子に戻っていました。
すっかり安心しきった僕は、パジャマのボタンをとめながら「うん」とうなずきました。
電話の手伝いというのもおかしな言いまわしですが、姉の『お願い』にはすべてイエスで
応えるのが僕の習性になっていたのです。

「ありがと。ちょっと苦手な人に電話するから、お姉ちゃんの手を握っていてほしいの」

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