洒落怖
押入れの姉

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夕焼け……きっとそうだったのだと思います。
それはただの西日であったのだと、今でも自分に強く言い聞かせています。

902 「押入れの姉」 sage 2010/09/09(木) 16:06:37 ID:KzzABe100
どこか異次元めいた黄昏の光景の中で、押入れのふすまがゴソッと音を立てて揺れました。
僕は誰かに呼ばれた気がして、夢遊病者の態で押入れに向かい、何の迷いもなくふすまを開けます。

先ほどと寸分たがわぬ姿勢で姉が寝ていました。
ですが透き通るように白かった肌が、禍々しい妖光に照らされて赤く輝き、まるで、

まるで……。

以前にも……どこかで……こんなモノを見たような、気がしました。

言いようのない既視感にとらわれつつ、僕の体はするりと押入れに侵入し、姉のやわらかな腰に
馬乗りになり、小さな体で覆うように抱きすくめました。

なめらかな肌の感触に原初の欲望を掻き立てられ、夢中で体をまさぐり、姉の端正な顔に自分の頬を摺り寄せました。

永遠にこうしていたい。
物言わぬ姉の体温を感じながら涙さえ溢れてきました。

一刻も早く姉と二人きりになりたいと思い、内側からふすまを閉めようとします。
狂気じみた赤光がだんだんと細くなり、完全に閉じようとしたそのとき、耳元で姉がささやきました。

『にげなさ……』

バンッ!

聞き覚えのない声が言葉を結ぶ前に、僕の体がものすごい力で押入れから引き戻されたのです。
急転する視界が定まると、眼前には学校の制服を着た姉がいました。

「なにを見たの」

蛍光灯の無機質な明かりのついた室内で、両肩をがっしりと掴まれていました。
真正面から見据えるその表情はとても険しく、いつもの朗らかな姉からはまるで想像できないものでした。

903 「押入れの姉」 sage 2010/09/09(木) 16:08:02 ID:KzzABe100
「なにを、されたの」

尋常ではない気迫に声も出せず、痴呆患者のように、無人となった押入れと姉の顔のあいだで視線を泳がせるしかありませんでした。

「驚かせてごめんね……でも大事なことだから」

やがて僕が震えていることに気づいたのでしょう、姉はいくぶん穏やかな声で問いかけてきました。

僕はたどたどしく、事の顛末を話し始めました。
支離滅裂な内容にも関わらず、深刻な表情を崩さぬまま聞き入っていた姉が、途中でふと顔を赤らめるところがありました。

「押入れの中にいたのは、わたし、だったの……?」

鋭かった眼光が急にやわらぎ、すこし小首をかしげるような仕草をしました。
なぜ押入れに「誰か」がいたことには触れず、そこにいたのが「自分」だったことに驚き、しかも頬を紅潮させたのか、僕には
知る由もありませんでした。

「どんな……格好をしていたの?」

そう聞かれて、今度は僕がうつむく番でした。
シワひとつない紺のブレザーを着込んだいまの姉と、脳裏に強く刻まれたあられもない姿の姉が、どうしても重なってしまったのです。

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