洒落怖
押入れの姉

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「だ、大事なことだから……ね?」

ひざを突いたまま、上目遣いでこちらをのぞきこむ姉の耳朶が、まだ赤らんでいるのが見えました。
もともと姉にウソをつくという習慣がなかった僕は、正直に話すしかありません。

「そう……着物では、なかったの」

独り言のようにつぶやく姉はなぜかホッとした様子でした。

904 「押入れの姉」 sage 2010/09/09(木) 16:09:24 ID:KzzABe100
その後も、ソファで眠りそうになって、気づいたら夕暮れになっていたこと。
姉と一緒に居たい衝動に駆られ、押入れに入ったことを、恥ずかしい気持ちを抑えて語りました。

「本当に、それだけ?」

姉の尋問はさらに続きました。

「なにか、唄のようなものは聴かなかった?」

唄に覚えはなかったので、首を小さく横に振りました。
でも最後、自分になにか言葉をかけてきたのは覚えています。

「……なんて、言ってた?」

たしかあのとき姉は……いえ、姉に見えていた正体不明のなにかは、

『逃げなさい』

そう、言おうとしていました。

「にげ……ろ?」

その言葉があまりに意表をついていたのか、姉は目を丸く見開き、引き締めていた口元をわずかに開けて呆然としていました。

ですが表情を弛緩させたのもつかのま、次の瞬間には眉間にしわを寄せて、奥歯をギュッとかみ締め、なおさら剣呑な雰囲気に戻ったようです。

僕の肩を掴む手に万力のような力を込め、視線は床に落としたまま、「いつまでもいつまでも…」とか「あの女…」などと、
なにやら呪詛めいた言葉をぶつぶつと吐き続けていました。

両肩のあまりの痛みにうめくと、姉はハッとして僕から手を離し、肩をさすりながら「ごめんね、ごめんね」と
何度も謝っていました。

905 「押入れの姉」 sage 2010/09/09(木) 16:11:15 ID:KzzABe100
いつもの優しい姉を見れて内心安堵する僕に、姉はポツリと

「あのね……服を、脱いでくれないかな?」

突然の要請に、ただでさえ心ここにあらずだった僕は、完全に硬直しました。
わけがわからない。
どうして、と訊いても「必要なことだから」と強く返されるだけでした。

おそらく反抗しても無理やり脱がされるであろうことを予期し、僕は渋々と寝巻きを
脱いでいきました。
まだ姉と一緒に入浴する習慣を残していた僕でも、異性がまじまじと見つめる中で
脱衣するのは羞恥といえました。

やがて白いブリーフだけの姿になって「これだけは絶対脱がない」という意思表示をすると、
姉は多少バツが悪そうにしたあと、僕に顔を近づけてきました。

どぎまぎする僕など意に介さず、姉は指先から手、二の腕へと、弟の体をつぶさに観察してきました。
穴が開くほど近くで、ときにはスンスンと鼻さえ鳴らしながら、なにかを懸命に探しているようでした。
それは骨董品を目利きする鑑定士というより、獲物をさがす猛禽のように思えました。

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