洒落怖
赤い仏像

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そろーっと腰を上げながら窺うと、こちらを向いたと思われた“紅仏様”は最初に見た時と同じように正面を見据えていた。

『気のせい…か』

361 本当にあった怖い名無し sage New! 2009/05/04(月) 06:07:29 ID:nuJ7Q8cXO

それから“紅仏様”が動く気配は無かった。

なるべく近い場所にと寺の横にテントを張る。
秋の山は寒い。
テントに入る頃には辺りは真っ暗になっていた。
長い夜の始まりだ。

俺はテントの中で眠れずにいた。
山は静けさに包まれ、時折鳥の声や虫の音が聞こえる意外は完全に静寂と闇が支配していた。
(罰当たりとは思ったが)外で用を足していると、不意にまた遠吠えを聴き、ビクリとする。
あの犬だろうか。

テントに戻ると吊してある懐中電灯の電池を入れ替え、灯したまま横になった。
しばらく冴えていた目も次第に重くなり、深く深く沈んで行った。
酷い耳鳴りに目を覚ましたのは深夜だった。
携帯を覗くと2:15と表示されている。
ガサ…音がする。
『うっ…!!』
何だこの匂いは…。
いつの間にか辺りは濃い獣の匂いに包まれていた。
懐かしい感じもする匂いに混じって、錆びた鉄の臭いが辺りに充満している。
血の臭いだ。

グルルル…唸り声に体が強張る。
間違いない。
何か居る。
頭を過ぎったのは熊だった。
まずい事になった。
夢を見る前にこんな事になろうとは…。
あれやこれや考えたが、どうしてもこの状況を打開出来る名案は浮かばない。

363 本当にあった怖い名無し sage New! 2009/05/04(月) 06:09:06 ID:nuJ7Q8cXO

こうなったらやり過ごすしかない。
俺は息を潜め熊が立ち去るのを待った。
だが、おかしい。
待てども待てども、一向に立ち去る気配はないのだ。
三十分くらい生きた心地のしない時がゆったりと流れた。
次第に恐怖心は好奇心や探究心に変わっていた。
そもそも熊なんか出るのか?ひょっとしたらあの犬かも知れない。
そう考えたら正体も判らない相手に怯えて居るのが馬鹿馬鹿しく思えてきた。
意を決するとジーッとテントを開け、懐中電灯で外を窺った。
何も居ない…?
既に立ち去ったのだろうか?先ほどまであった気配は完全に消えていた。

テントから這い出て辺りを見回す。
やはり何も居ないようだ。
疲れてたのか?
テントに戻ろうと振り向くと…それは居た。
唸り声を懐中電灯で照らす。

化け物だ。

大型犬くらいの大きさ。
熊のような太い足。
形は狛犬のそれに近い。
が、風貌はまるで違う。
顔には六つの飛び出さんばかりに突き出た目玉があり、ギョロギョロと四方八方を見回し。
口は三つ、頭の上と正面と顔面の横に付いていた。
胴体からは人の腕や足が生え不気味にユラユラと蠢いている。
俺は懐中電灯を落とした。

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