洒落怖
テンポポ様

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678 本当にあった怖い名無し sage 2011/07/27(水) 18:08:16.11 ID:MtTpUC540

一番初めに違和感を感じたのは、山を下り始めて数分の事だった。
早朝の山にしては静かすぎるのだ。山に行ったことのある人なら分ると思うが、山は意外に色々な音に溢れている。
小川のせせらぎや、小鳥の囀り、木の葉のこすれる音に、小さな虫の声。
そのどれもが一切聞こえない。聞こえるのは俺が落ち葉を踏みしめる乾いた音と、気まぐれに吹く冷たい風の音だけ。
それに気付くと、とたんに俺はえも言われぬ恐怖に襲われた。やはり、この山は普通じゃない。
しかし、恐怖に襲われたからと言っても足を速める事は出来なかった。空腹と睡眠不足が祟っているのだ。
俺はふらつく足を無理やり動かし、徐々に山を下っていく。

次に違和感を感じたのは、山の中腹辺りに差し掛かった頃だっただろうか。
何故か誰かに見られているような視線を感じ、辺りを見渡すもそこにあるのは細い木と枯葉だけだった。

「(ここはお山だ。俺以外はすでに山を下りているはずだし、多分気のせいだろう)」

無理やり自分に言い聞かせて足を進める。と、今度は俺の背後で誰かが話をしているような気配を感じた。
それも一人二人ではなく、複数の子どもの話声だった。
俺は思わず叫び出しそうになるが、手のひらで口を押さえて悲鳴を抑え込む。
その代わりに、俺は脚に力を込めて走り出した。何度も斜面を転がり、それでも走り続けていると、
いつの間にか謎の気配は消えてしまっていた。
張り付く喉のせいで呼吸が苦しく、貧血と酸欠でいよいよ意識が混濁してきた。
それでも、この恐怖から逃れるために、俺は這うようにして脚を進めた。

679 本当にあった怖い名無し sage 2011/07/27(水) 18:11:40.71 ID:MtTpUC540

事が起きたのはその時だった。突然背後から「○○ーーー!!」と母親の声が俺の名前を呼んだのだ。
思わず振り返る俺。しかし、そこに母の姿は無かった。代わりにいたのは、俺と同じ白装束を着た一人の少年。
一瞬、先にお山を下ったはずの友人かとも思ったが、声を出すなとあれほど言い含められて声を出すような奴はいないはずだ。
それにその少年の顔に俺は見覚えが無かった。それほど大きくはない村だ。同年代の子どもの顔くらい全員分る。
それでは、あいつは一体何者か……。
俺が頭を巡らせている間に、少年はにっこりと笑顔になるといたずらを思いついたような顔で口を開いた。

「さぁ、一緒に行こう」

その言葉を聞いた瞬間。俺は全身に鳥肌が立つのを感じた。胸の奥がカッと熱くなり、悲しくもないのに涙が止まらなくなった。

「さぁ、行こう」

少年が徐々に近づいてくる。
不思議なことに、落ち葉を踏みしめているはずの少年の足音は何故か聞こえなかった。

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