洒落怖
テンポポ様

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残された俺達は半狂乱だった。まだ、日が昇っていないせいで、明りはあの男が付けて行った蝋燭の火だけ。
不気味に照らされたお社の中で映し出される顔は見知った友人達の顔であったが、
そのどれもが精気を根こそぎ奪われたミイラのように見えてしまう。

「どうなってんだよ!」「知らねーよ」「……お母さん」「何なんだよ、くそっ!!」

初めこそ口々に文句や大人に対する罵詈雑言を吐いていた俺達だったが、
あの畏怖の対象だったお山に子どもだけで置き去りにされている恐怖感と絶望感、
そしてこれからどうなってしまうのか分らない不安感に支配されてしまい、
結局皆無言のまま太鼓の音が聞こえるのをひたすら待ち望んでいた。

676 本当にあった怖い名無し sage 2011/07/27(水) 18:01:58.56 ID:MtTpUC540

そうこうしているうちに、何処からともなく野太い太鼓の音が聞こえて来た。
誕生日的に一番年少のAはその音を聞いただけで、ビクッっと体を震わせて
声にならない小さな悲鳴を上げていたようだが、俺達の視線とこのお社の中の
最悪な空気に耐えられなくなった様子で、扉をあけるとダッシュでお社を飛び出して行った。
開いた扉から一瞬だけ覗いた外の景色は、向かいの山に丁度朝日が顔を出したところで、
不思議なことにこの時だけはなぜか安心することが出来た。
Aが飛び出して行って数十分。俺達は特に話すこともなく、ただじっと床を見つめて次の太鼓の音が聞こえるのを待っていた。
どこかに隙間があるのか、冷たい空気が身体を震わせる。
残された仲間同士で身体を寄せ合い寒さから身を守っていると、
ドーン ドーンと地鳴りのように野太い太鼓の音が再び聞こえてきた。
それを聞いたBは心を決めていたのか、すくっと立ちあがると躊躇することなくお社を出て行った。
それから数十分後にはCが、その後にはDがお社を出て行った。
お社に残されたのは俺一人。
それまでなんとなくあった仲間と一緒だから大丈夫という心理もなくなり、俺は本当に一人になってしまった事実に
ガタガタと震えていた。もうこの頃には時間の感覚などなくなってしまっていた。
膝を抱え、恐怖と孤独感に押しつぶされそうになっていたんだと思う。
だから太鼓の音が聞こえた時は恐怖よりも歓喜の方が強かった。

677 本当にあった怖い名無し sage 2011/07/27(水) 18:05:06.82 ID:MtTpUC540

やっとこの恐怖から解放される。
そう思ってお社の扉を開くと、そこには、なんてこともない普通の山の景色が広がっていた。
お社に入った時には、まだ日が昇っていなかったので良く見えなかったのだが、
俺達の畏れていたお山にしては拍子抜けするほど普通だった。
朝の爽やかな空気が満ち、風にそよぐ色とりどりの葉っぱ。
朝梅雨はお日様の光を跳ね返し、まるで光の絨毯を敷いたような錯覚さえ覚えた。
思わず、「何だ、別に大したことねーじゃん」と口をついて出そうになるのを呑み込み、
俺はお山を下り始めた。

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