師匠シリーズ
追跡

この怖い話は約 3 分で読めます。

494 追跡  ◆oJUBn2VTGE ウニ New! 2007/09/26(水) 22:15:41 ID:gAYKdkL30
柱の所に戻り、出来るだけ手を引っ込めておくように指示してから手錠の鎖の部分に狙いをつける。暗いので、何度も軌道を確認しながら5分の力でツルハシの先端を打ちつけた。
ゴキンという音とともにパッと火花が散り、師匠から「もう一発」という声がかかる。
手錠とは言っても所詮安っぽい作りのおもちゃだ。次の一撃で、鎖は完全に千切れ飛んだ。
「肩、かして」
という師匠を支えながら、出入り口のドアに向かう。
鍵が掛かっていたが、中からは手動で解除できた。
ようやくプレハブの外に出た時には、入ってから20分あまりも経過していたと思う。
外には彼女が待っていて、師匠は片手を挙げて「いつも、すまん」と言った。
暗くて、彼女の表情までは伺えなかった。
師匠はナンパした女とホテルに行ったまでは良かったが、出てから一緒にレストランに向かう途中、偶然その女のオトコに見つかり、逆上したそいつに後ろから鈍器のようなもので殴られて車で連れ去られたのだと言う。
それからこの廃工場を溜まり場にしていたオトコとその仲間たちから殴る蹴るの暴行を受けた上、手錠をはめられ監禁されてしまったということだった。
俺たちが見つけなければどうなっていたかと思うと、ゾッとしてくる。
「力が入らない」という師匠を背負うような格好で、半分引きずりながら俺はとにかくこの場を離れようと歩き出した。
熱い。
風邪を引きでもしているのか、師匠の体はかなり熱かった。無理もない。服は奪われでもしたのか、この寒空の下、ジーンズに長袖のTシャツ1枚という格好だった。

495 追跡  ◆oJUBn2VTGE ウニ New! 2007/09/26(水) 22:18:54 ID:gAYKdkL30
彼女が上着を脱いで師匠の背中にかぶせる。
俺たちは無言で歩き続けた。どこかタクシーを拾える所まで行かなくてはならない。
やがて師匠が熱に浮かされたのか、半分眠りながらうわ言めいたことをぼそぼそと繰り返し始めた。
俺は、ともかくこれですべて解決したと安堵しつつも、『追跡』の続きが気になっていた。
廃工場についてからの見開き4ページ分で師匠の救出に成功しているにもかかわらず、その最後にはこうあったのだ。

  心の準備が出来るまで次のページには行かないほうが良い。

このあと、いったい何があるというのだろう。
俺は師匠がずり落ちないように苦心しながら片手で『追跡』を取り出して、口にくわえたペンライトをかざす。
心の準備……
なんのためのだろう。
またドキドキしはじめた心臓を鎮めながら、俺はゆっくりとページをめくた。

  彼がうわ言で女の名前を口にした途端、その背中に鋭利な刃物が突き立った。

ゾクッとした。一瞬歩調が乱れる。
鋭利な刃物。
そんなものがどこから来るのか。

この怖い話にコメントする

追跡