師匠シリーズ
追跡

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483 追跡  ◆oJUBn2VTGE ウニ New! 2007/09/26(水) 21:22:22 ID:gAYKdkL30
そのあと、彼女の言葉はなかったのでそれはゴミ箱に捨てた。
「もう出ましょう。……割り勘で」
そう言いながら彼女は身を起こした。俺が払いますと口にしたくなったが、どう考えても割り勘がここからのベストの脱出方法だった。
先払いしていた彼女に2分の1を端数まできっちり手渡し、苛立ちと気恥ずかしさで、俺は(ハイハイ、早くて悪かったね)と頭の中で繰り返しながら彼女より前を歩いてホテルを出た。
自分でもよくわからないが、どこかにあるだろう監視カメラにぶつけていたのかも知れない。
ホテル街を抜けてから、『追跡』を開いた。
「次は、レストランに向かったようです」
順番逆だろ、と思いながら言葉を吐き出した。
昼間のうちにホテルなんて、まるで金の無い学生みたいじゃないか。
いや、まさにその金の無い学生なのだった。あの人は。

  レストランまであと50メートルという歩道で、血痕を見つける。

ページの中ほどにその文章を見つけたとき、一瞬足が止まった。そして急いで自転車に乗り、レストランへの途上で血痕を探した。
あった。
街路樹の間。車道が近い。探さなければきっと見落としていただろうそれは、とっくに乾いている。
誰の血だ?
周囲を見るが、夕暮れが近づき色褪せたような雑踏にはなんの答えもない。

484 追跡  ◆oJUBn2VTGE ウニ New! 2007/09/26(水) 21:24:13 ID:gAYKdkL30
ただ、わずか数メートル先から右へ折れる裏道がやけに気になった。車が通れる幅に加え、すぐにまた直角に折れていて見通しが悪い。人ひとりいなくなるのに、
うってつけの経路じゃないか。
そんな妄想ともつかない言葉が頭の中に浮かぶ。
念のためにレストランまで行き、師匠の人相風体を告げるが店員に覚えているものはいなかった。デートはここまでだったらしい。
確かに何かが起きている。
「続きは?」
彼女に促されて、ページをめくる。
「タクシーに乗ります」

  そして俺は、運転手に「人面疽」を知っているかと聞く。

人面疽?
どうしてそんな単語がここで出てくるのか。
困惑しながらも読み進めるが、どうやらこのページはタクシーによる移動の部分しか書かれていないようだ。風景などの無駄な描写が多い。
俺たちはタクシーを止め、乗り込む。
そして運転手に人面疽を知っているかと聞いてみた。40代がらみのその男は、「いやだなぁお客さん、怪談話は苦手なんですよ」と言って白い手袋をした左手を顔の前で振った後、「ジンメンソはよく知りませんけど、こないだお客さんから聞いた話で……」と、妙に嬉しそうにタクシーにまつわる怪談話を滔々としはじめた。
怪談好きの客と見てとってのサービスなのか、それとも元々そういう話が大好きなのかわからなかなったが、ともかく彼は延々と喋り続け、俺はなにかそこにヒントが隠れているのかと真剣に聞いていたが、やがて紋切り型のありがちなオチばかり続くのに閉口して深く腰を掛け直した。

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