師匠シリーズ
天使

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697 :天使   ◆oJUBn2VTGE :2008/04/30(水) 22:19:04 ID:NrJoj9WI0

その選び方のことをカードを並べる展開法、『スプレッド』と言い、それぞれ並べ
る枚数も違えば並べ方によるカードの意味も違ってくる。そしてそのスプレッドの
なかで、『土』の形と結びつくものがあった。
(ケルト十字か……)
オーソドックスなスプレッドで、10枚のカードを並べるのだが、最後まで並べる
と『十|』という十字架の右隣に縦棒を置いたような形になるのだ。それは時計回
りに90度倒すとそのまま『土』という漢字に見える。
私は授業が終わるとすぐに教室を出て、もう一度間崎京子の教室へ向かった。
タロットカードならば自分もよく知っている。そこからなにかヒントがつかめるの
ではないかと思ったのだ。
「石川さん」
昼休みのお弁当のために机を並び替えようとしていた石川さんは、驚いた顔でこち
らを見た。
それでも迷惑そうなそぶりも見せずに、仲間たちを置いて教室から出てきてくれた。
「タロットカード」という言葉を出してもピンとこなかった彼女に、なんとかその
時のことを思い出して欲しいと畳み掛ける。
「え~と、確か太陽のカードがあったかな。それからあとは、あれ、剣が刺さって
 倒れちゃってる人のカード。う~ん、あとは覚えてない。そんなマジマジ見てた
 わけじゃないし」
剣が刺さった男?!
私は息をのんだ。
「それ、『土』のどの部分にあった? それからどっちの方向にむいてた? 剣の
 柄は間崎さんから見てどっちだった?」

698 :天使   ◆oJUBn2VTGE :2008/04/30(水) 22:23:08 ID:NrJoj9WI0

石川さんは暫く考えたあと、確か……と前置きしてから答えた。
「端っこだったから、『土』の最後の止めの部分かな。柄の向きは、あんまり自信
 ないけど私の方に向いてたと思うから、間崎さんから見たら剣の先が正面になる
 のかな」
石川さんはそれがどうしたのと怪訝そうな顔で私を見つめる。
剣が刺さった男は、小アルカナの剣の10。そして間崎京子に切っ先が向いていた
ということは”正位置”。
最悪のカードだ。個人的には『塔』の正位置よりも不吉な感じのするカードだった。
そして『土』の止めの部分ということは、ケルト十字における「最終結果」を表す
カード。
私は心臓が高鳴りはじめたのを感じていた。
剣の10が暗示するものは、《破滅》《決定的な敗北》《希望の喪失》《さらなる
苦しみ》……
間崎京子はその最終結果を島崎いずみに飾ることなく告げたのだろう。そして彼女
は泣いた。
悩み事に対する答えとして、この仕打ちはあんまりだった。それが良いとこ取りば
かりをしない、占いのあるべき姿だとしても。ましてそれが、島崎いずみ自身の運
命だったとしても。
私は誰に向けるべきなのかも分からない波立つような怒りが身の内に湧いて来るの
を感じていた。
私の様子を不審げに見ていた石川さんが、「もう教室に戻るけど」と言うのを制し
て、これが最後だからと、『太陽』のカードの位置を聞いた。
「確か、真ん中のへん。ごめん、ホント忘れた。え? 向き? 太陽に向きなんて
 あるの?」

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