師匠シリーズ
天使

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693 :天使   ◆oJUBn2VTGE :2008/04/30(水) 22:07:42 ID:NrJoj9WI0

そう言うヨーコもニュースがショックだったのか、いつものハキハキした調子がな
い。私にしても、まったく身に覚えのない罪悪感がひっそりと肩に乗っているのを
感じていた。どうして彼女たちは私をそんなに怖がったのだろう。
頭の中に真っ黒い雲がかかったようで気持ちが悪かった。
だからだろうか、3時間目の休み時間にクラス中でひそひそと交わされる噂話にそ
れとなく耳を傾けていた私は、ある単語に強い関心を惹かれた。
「間崎京子」
そんな名前が、飛び交う無数の言葉の中であきらかな異質さを持って飛び込んで来
たのだ。思わずその話をしていたグループの所へ行って詳しい話を聞く。
「え? だから、その間崎さんのトコに島崎さんが出入りしてたって話。なんでっ
 て、よく知らないけど。あの人、なんか占いとかするらしいから、悩み相談でも
 してたんじゃないかな」
礼を言って、自分の席に戻る。
間崎京子。1週間前、昇降口で私に話しかけてきた女子。あの時の彼女の言葉が頭
の中でグルグルと回る。
「恨みはなるべく買わない方がいい」
ひょっとするとあれは、目の前で顔も知らない誰かのラブレターを乱暴に扱った私
に対する警告ではなかったのかも知れない。彼女は別のなにかを知っていてそう言
ったのではないだろうか。
たまらなくなって席を立ち、教室を出る。あちらこちらでセーラー服のかたまりが
出来ているざわつく廊下を抜け、間崎京子がいるはずの教室を目指した。
教室の前にたどり着くとドアは開け放たれていたので、そっと中を覗く。何人かの
女子が私に気づいて無遠慮な視線を向けてくる。このクラスのことは全く知らない
ので、間崎京子が普段どのあたりに座っているのか見当もつかない。しかし見渡し
た限りはどこにもいないようだった。軽い失望を覚えた時、見知った顔に出くわし
た。

694 :天使   ◆oJUBn2VTGE :2008/04/30(水) 22:10:50 ID:NrJoj9WI0

「石川さん」
と呼ぶと、向こうでも私と認めたらしく笑顔でドアの所までやってきた。
「ちひろちゃん、どうしたの」
同じ中学だった子だ。それほど親しかったわけでもないけれど、このさい縁にすが
らせてもらおう。
「間崎さんはこのクラスだよね」
石川さんは一瞬表情を硬くした。そして声を潜めて言う。
「そう。だけどさっき早退したよ」
肩を叩かれ、誘導されるままに廊下の隅に身を寄せた。リノリウムの床がキュッ
キュッと鳴る。
「あのさ。島崎いずみさんのことだよね」
驚きながらも頷いた。どうやら噂はこんな遠くの教室まで短時間に飛び火していた
らしい。
石川さんの話によると、島崎いずみは本当に間崎京子の所へ時々来ていたらしい。そ
して教室の一番奥の席でなにごとか語り合っていたそうだ。間崎京子の所には彼女だ
けじゃなく、他にも数人の女子がまるで女王を慕うように出入りしていたとのこと
だった。
「間崎さんってさ、なんていうか人の心を見透かしてるみたいな冷たい目をするの
 よね。凄い美人だからそれが余計凄みがあるっていうか。怖いくらい。話してみ
 ても、時々意味わかんないこと言うし。クラスのみんなは彼女を警戒して避けて
 るって感じかな」
私の第一印象と同じだ。彼女には気を許せない雰囲気がある。

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