師匠シリーズ
四つの顔

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さらにその二日後、夕飯を食べてぼうっとしている時にPHSが鳴った。
見覚えのない番号だったので、「はい」とだけ言って出ると「良かった。いた」という声。
沢田さんだ。
たまのオフ会以外ではほとんど接点がない。電話を掛けてくるなんて初めてではないだろうか。

597 四つの顔  ◆oJUBn2VTGE ウニ 2009/10/11(日) 23:09:29 ID:e4PX3/wx0
「掲示板見てる?」
「いえ」
そう答えながらブラウザを操作し、オカルトフォーラムのページを表示させる。
「二時間くらい前」
そう言われて最新のレスを確認すると山下さんのハンドルネームがそこにあった。
『Dが増えている』
以前見たレスと同じ内容。
けれど始めに見たものよりも得体の知れない気持ち悪さがあった。
そのレスの少し前にも山下さんの書き込みがあった。
『怖い』
そのたった二言だけ残して山下さんは去っている。なにかが起こっているような予感がして鳥肌が立った。
「家に電話してるんだけど、出ないの。携帯も」
「落ち着いてください。大丈夫ですよ」
沢田さんの声が切羽詰まったような響きだったのでなるべくゆっくり話し掛ける。
「怖い、っていう書き込みに気づいてすぐに電話したのよ。でも出てくれなくて、何度か掛け直してたら、『Dが増えている』って書き込みがあった」
電話を鳴らしている間に書き込みが?
それが事実ならおかしい。
家にいながら電話を無視していることになる。それとも別の場所でパソコンを使っているのだろうか。
「家に行ってみたいんだけど、一緒に来てくれない?」
「今からですか」
「そう。ちょっと、怖いし」
どうして俺なんだろうと思ったが、考えると確かにフォーラムの常連には男性が少なく、山下さんが当事者となるとあとは俺くらいしかいないのだった。
「京介さんは」
女性ながら俺より頼りになりそうな人の名前を挙げてみたが「バイト中みたい」との返答があった。
やっぱり行かないといけないのか。

599 四つの顔  ◆oJUBn2VTGE ウニ 2009/10/11(日) 23:12:02 ID:e4PX3/wx0
できたら家でごろごろしていたかったが、心配する沢田さんの気持ちも分かる。なんだか変だからだ。
仕方なく俺は同行に了承して電話を切った。
山下さんの家は知らなかったので沢田さんの指定するコンビニへ向かう。
自転車をこぎながら嫌な胸騒ぎがするのを必死でごまかそうとしていたが、頭の中には『Dが増えている』という言葉ばかりがぐるぐるとリピートされその度になけなしの勇気を振り絞らなくてはならなかった。
コンビニの車止めの上に立って背伸びしていた沢田さんを見つけて、声を掛ける。
「ちょっと先なんだけど」
そう言う沢田さんについて自転車を押しながら歩いた。
人通りの少ない夜の遊歩道を抜け、物寂しく点滅する街灯の下を歩き、やがて二階建てのアパートが見えてくる。
「一階の右端なの」
緊張した声でそう言うと、沢田さんは携帯を取り出しリダイヤルボタンを押した。
しばらく耳を当てていたがやがて諦めて腕を下ろす。
「やっぱり出ない」
顔を見合わせていたが、とりあえず部屋を訪ねてみないことには始まらない。道端に自転車をとめ、右端のドアの前に立った。
横にある台所らしき窓は真っ暗だ。ドアの真ん中に口を開けている郵便受けからはなにもはみ出していない。ずっと留守をしているのなら、新聞やチラシが詰め込まれていても良さそうなものだ。
チャイムを鳴らしてみる。耳を澄ましたが、中でちゃんと鳴っているのかよく分からない。
しばらく待ってからドアを叩く。
「山下さん」
「山下さぁん」
さらに待っても反応は無かった。
左の方から光が近づき、乱暴な音とともに背後を通り過ぎる。俺がその車に気を取られてよそ見をしていると、「開いてる」という声がした。
振り返ると沢田さんが口を押さえてドアノブを握っている。
「山下さん」

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