師匠シリーズ
四つの顔

この怖い話は約 2 分で読めます。

730 四つの顔 ラスト  ◆oJUBn2VTGE ウニ 2009/10/18(日) 22:52:34 ID:Zfjh8a480
その時、鏡占いに行こうという話になっていたはずだ。鏡。鏡。
疲れたから帰る?
疲れた時には四つの顔が見える。鏡の向こうには何が見える?
俺はA、沢田さんはA、ColoさんもA、みかっちさんはC……彼自身は?
誰も訊かなかった。どうして訊かなかったんだろう。思い返すと、どうも彼がその話題にならないよう上手くかわしていたように思う。
彼は鏡を見たくなかった。だからあの夜、先に帰った。そして自分の部屋の鏡を割った。
なぜ見たくなかった?
俺は想像する。
鏡の前に立っている俺自身を。そしてその鏡に映っている顔が、一瞬、どこかで見たような、どこでも見ていないような、知っている誰かのような、知らない誰かのような、無表情の人間の顔に見えた気がした。
ハッとして我に返る。
すべてのDを殺して回っているという彼が本当に恐れているのは……
自分に真実を告げる他者の存在。
「会いたいって言うのに、私、来ないでって」
沢田さんが口元を押さえる。
それで実家へ帰るのか。
急な引越しの理由が分かった。
あれ?
その時、急にデジャヴを感じた。こうなることを知っていたような気がするのだ。なんだろう。気持ちが悪い。
「『分かった』って、そう言って電話が切れた。もう繋がらない。掛けても、現在使われていない番号だって……」
沢田さんは泣いているようだった。
しばらくそうして二人とも黙ったまま夜風に吹かれていたが、やがて落ち着いた頃合を見て席に戻ろうと言った。
居酒屋の自動ドアの前に立ち、それが開く瞬間、ガラス製の不完全な鏡に映った俺と沢田さんの後ろ、誰もいないはずの空間に、無表情の人間がひっそりと立っているような気がした。

この怖い話にコメントする

四つの顔