洒落怖
ある殺人者の話

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「そのことは遺族には言わない方がいいと思う。話すのは君の自由だが第二の事件が起こらないためにね。」

どういうことなのか事件が合った日にはよく分からなかったが、今はよく分かる。
私があの時考えてた様に私が引き止めなかったら親子は助かっただろう。
運転手は親子と共に他界している。
愛する家族を失った家族は何に向かってこのどうしようもない感情を投げつければいいのか。

私は自然と足が重くなっていた。
歩みが遅くなっても進んでいればかならず目的地にたどり着いてしまう。

「はぁー。どんな顔でいけばいいんだ・・・」

この言葉を何回歩きながら口にしただろう。
目的地の周辺をしばらく歩いていた。
事件の日の警官が言っていたと思われる言葉を思い出す。

「君のせいではないんだよ。悪いのは酔って運転した人だ」

『そうだ。何を悩んでいるんだ。私は泣いていた女の子に好意で呼び止めたんだ。トラックが来ると分かっていれば呼び止めたりはしなかった。
悪いのは運転手だ。悪いのは運転手だ。悪いのは運転手だ。
私じゃない。私じゃない。私じゃない。』

何度も呪文のように頭で繰り返しながら会場に向かった。

さっさとやるべき事を済ませはやく帰りたい。
もう存在しない親子に向かい手を合わせる。

『私のせいじゃないよ。あなたたちの時間を奪ったのは私じゃないよ。』

そんなことを思っている自分に嫌気がさした。

『何やってるんだろ。こんなこと言いに来たのかな。』

さっさと帰ろうと足を上げたとき、呼び止められた。

「君は事件の時、近くにいた人じゃないですか?」

他界した女の子の父親が、もう死にそうな顔でこちらを見ながらいった。

「はい。いました。」

余分な事などしゃべらないようゆっくりと言葉を返す。

「大変だったろうね。あのときのこと覚えているかな?もし私の家族たちのことを見ていたらなんでもいいから教えてくれないかな。なんでもいいんだ。最後に笑っていたのか、泣いていたのか、どんなことでもいいんだ。」

私は死にそうな顔の父親の顔を見て、あのときの事を言おうか迷っていた。

『言ったらどうなるんだろうか。恨まれるのだろうか。』

私はもう恨まれてもいいと思って言うことにした。
さっき手を合わせた時に馬鹿げた事を考えていたことに罪悪感みたいなものを感じていたからだ。
あのときのことをゆっくり父親に話した。

「そうか。じゃあ笑ってたんだな。良かった。良かった。それだけでも分かって嬉しいよ。泣いてなければそれでいい。ありがとう。ありがとう。」

何度もお礼を私に言っていた。
その言葉は私にどれだけ救いを与えたのだろうか。
しかしそのときその救いを感じられなかった。
家族はもう一人いた。
私がお葬式の会場に入ったときずっと俯いていた人だ。
兄がいたのだ。
私が事件の事を話し終わった時、兄は私をまっすぐ見ていた。
私は顔を合わせられなかった。
瞬きもせずただ私だけを見ていた。
その視線があの救いの言葉を打ち消していた。
私が帰ろうとした時、兄・健二(仮名)が何か呟いた気がした。
何を言ったかよく聞こえなかった。

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  • 匿名 より:

    長いしつまらない

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