洒落怖
天女さん

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雨の日。五時半位に待ち合わせた。
体育館裏の例の窓から中に入った。
「凄く緊張するねー」
なんていいながら用務員さんが鍵を開けるのを待った。
用務員さんが中をさらっと確認するのをやり過ごし。
そのあとで扉に鍵をかけた。
天女さんは隅っこの方で脱ぐと色々と支度をしてからきた。
カラーコンタクトいれたらしくて人間離れした綺麗さ。
胸も大きめで結構張りがあって形が崩れきらなかった。
俺はすごいドキドキしながら近づいていった。
「どう?」
「………」(言葉に出来ない)
「顔…凄いよ」
触れちゃ駄目だ。触れちゃ駄目だ。なんて連呼してたっけ。
数分そんな状態してたら扉の外が騒がしくなった。
天女さんは慌てて服を着て窓から逃げ出した。
俺はうっかり扉に鍵かけちゃったことにしてごめんごめんて言いながら開けに行った。

984 本当にあった怖い名無し sage 2012/05/30(水) 21:19:37.11 ID:HhN52zwF0
「ほんとに何もしなかったね。
触りたい位は言うんじゃないかって」
「約束は守るよ」
「良い人をそこまで徹底して出来るって凄いよね」
「え?」
「抑圧酷いと病気になるよ?
気持ちは口に出さないと
言うだけなら気にしないのに」
「そんなに…酷い?」
「悪い気しないけどね。心配にはなるくらいに」
天女さんが俺の手をとって手の甲にキスした。
この手ぜってえええええええあらわねえええええええええ!
って叫びたい衝動をどうにかこらえた。
天女さんが笑ってた。
「口に出せばいいのに」
「じゃあ出す。当分あらわない」
「じゃあ当分触りもしない」
「洗うから、またキスしてくれる?」
「やだ」

そして撮影日が来た。
俺は天女さんに誘われて撮影隊に合流した。
三台くらいのレンタカーのバンに分かれて移動。
さすが有名大の映画サークル。積み込み手伝ってる時みたら結構機材も充実してた。
古めだったけど、うちの大学の講堂の裏にある手作りのやつよりはよっぽどまし。
天女さんは口数少なかった。撮影前でどんどん緊張してたみたい。
あっちの大学の人から、二人はどういう関係って聞かれて。友達と答えようとしたら。
「恋人」
天女さんが思いもよらない事を言って、ちょっとびっくりした。

995 本当にあった怖い名無し sage 2012/05/30(水) 23:17:23.73 ID:HhN52zwF0
撮影場所は伊豆の別荘地外れのログハウス。
この暑い中、ライダースーツ着てるゴツいのが、俺のオヤジのって自慢してた。
俺は勝手もわからないままレフスタンド一つ任された。
別荘の中では、天女さんがライダースーツに追い回されるシーンがいくつか取られた。
台本もみてないしさっぱりだったんでどんな話かってきいたらサイコホラーとか。
監督は学生監督として処女作品で入選までいったってやつで。
とにかく演技へのダメ出しも半端なくて、短いからいいようなものの。
同じシーン20回とか撮り直しかけたり。
「ばっかやろう!走り回ったら汗ばむのあたりまえだろ。
少しくらい化粧崩れたほうがリアリティあんだよリアリティ!
化粧直し過ぎんなって何度いったらわかるんだよ!」
みたいにもの凄い剣幕で怒鳴り散らす一幕もあった。
すげえな、映画の世界。
こういうやつがきっとクオリティ高い作品作って本職になるんだと思った。
ベッドシーンっていう割りに、なんか荒っぽいシーンばっかりとってる。
一日目の撮影が終わって、自由時間に外に出てたら天女さんが来て
「ちょっと聞いてくれる…?」
実は台本が差し替えられてベッドシーンよりもどぎついシーンになってたらしい。
ヒロインの凄惨な過去がどうしても作品に必要だと言われて仕方なく承諾したんだとか。
まだ納得はいってないけど撮影が佳境に来て出来栄えの手応えを皆実感してるから
クオリティのためと言われると引き受けざるを得なかった。
俺が呼ばれたのは心強い友達にいてほしかったから、だそうだ。

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