後味の悪い話
小松左京の短編小説 『石』

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和子と夫の良太郎には一粒種の四歳の息子良夫がいる
良夫は見た目はとても可愛らしい、平均的な体格をした子供なのだが、中身は桁外れの神童だった。
生まれて三か月で片言でなくしゃべり、半年目から歩いて新聞を自分で取りに行って読み
二歳で幾つかの外国語をマスターしてしまった。
三歳のとき専門家に診せたところ「何億人に一人いるかいないかの存在」と言われる
そして「異常早熟」と診断を下し「あまり知識を過剰に与え過ぎると精神障害やノイローゼに
なる恐れがある、普通にのびのび遊ばせたり音楽をさせると良い」とアドバイスされた。

そのとおりピアノを習わせると恐るべき速さで上達し、教師の技術を嘲笑い馬鹿にするようになり
教室から追い出された。外で遊ばせても生意気な性格ですぐ喧嘩をしかけ半端のない腕力で中学生の
肋骨をへし折り、涼しい顔で「正当防衛になるさ」と言う始末だった。
最初はその才能を喜んでいた夫はそんな息子をだんだん気味悪がり邪険に扱うようになる。
彼はごくごく普通の子どもと平凡な暮らしを望んでいたのだった。
反対に和子はそんな超天才児の良夫に有頂天になり溺愛していた。
問題ばかり起こし、夫を含め周りから疎まれ嫌われる息子を庇い甘やかしまくる和子
「世界中があなたを嫌っても私だけは愛し続けるわ、ママがずっと守ってあげる」
そう言うと良夫も
「ボクもママが世界一好き、ママさえいればあとの人はどうでもいい」
と子供とは思えないほど熱っぽく囁いた。
やがて良夫に対する感情や育て方の違いから夫婦は頻繁に言い争いをするようになる。
和子は夫に反発するように良夫の欲しがる高等な書物をいくらでも買い与えるのだった

360 : 2/3 : 2009/08/25(火) 17:38:54 ID:WtkufTqV0
そんな良夫はいつも肌身離さずある『石』を持っていた。
それは良夫が生まれる前、夫婦で旅行したときに夫が拾った不思議な石だった
手のひら大で青く、一方が鋭く尖った形で、どうやら隕石らしいと鑑定を受け持ち帰り
寝室に飾っておいた物だが良夫は生れた時からその石がひどく気に入り、お守りとして片時も離さなかった。
ある日夫は良夫の生意気な行動と言動に溜まりに溜まった怒りと不満を爆発させ、
良夫と止めようとした和子を殴りつけると、あの石を取り上げてしまった。それを奪われることが良夫にとって
一番嫌がることだからだ。「こんなもの川にでも捨ててやる」と家を出ていく夫。その背に向かい良夫は
幼児とは思えない憎悪と呪詛をぶつけるのだった。
殴られて気を失っていた和子が翌朝目を覚ますと夫は帰っておらず、良夫は何故かあの石持っていた
「追いかけて行って、パパに一生懸命謝って返してもらった。パパはそのまま何処かへ行っちゃった」
そのまま夫は行方不明になり警察に捜索ねがいを出したが進展はなかった。
良夫ははしゃぎ「これからはボクがパパの代わりになるね」などと喜んだ
さすがに息子の行動に疑念を抱き、夜中こっそりあの石を調べてみる和子
その時背後から近寄ってきた良夫に凄まじい力でねじ伏せられた
「ボク、ママが好きだ!愛してるよ」と四歳の息子に犯されてしまう。
翌日から毎日それが続き、恐怖と絶望に打ちひしがれる。部屋にいくら鍵を付けても良夫の頭脳と力の
前では無力だった。思い余って何回か自殺を図ってもそのたび蘇生させられてしまう。
そして和子はある決意を固める、もはやあれは愛する息子ではなく得体の知れない化け物だった。

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