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334 継呪の老婆 ◆38avq92H7U sage New! 2005/12/04(日) 17:15:58 ID:orhP/4If0
実家に帰った。ネネとナナ、そして父が私を優しく迎えてくれた。親友を
失くした私を心配し、励ましてくれた。「いつでも帰って来い。お前の一人や
二人、いくらでも世話してやる。」いつもは寡黙な父が力強く言ってくれた。
「悩みあったら相談してね、彼氏のこととか、仕事の愚痴とか。」ネネと
ナナが私の背中をたたきながら笑った。結局、家族には、呪いのことは話せ
なかった。私は、呪いを拡散させる道を選んだ。もう、何も考えたくない。
私は部屋に戻り、荷物をまとめた。家族や友人一人一人に手紙を書いた。
手紙はポタポタと湿っていく。涙で文字も良く見えなかった。やがて、涙も
枯れ果てた。私は、灯りを消してベッドに座り、静かにその時を待った・・。
外から、ズリズリと何かを引きずる音が聞こえ、私は思わず飛び跳ねた。
心臓が止まりかけた。そのまま止まってくれればいいのに。玄関の扉が開いた。
呪いが、私の部屋に入ってきた。その正体を見た私は、意外にも冷静になった。
ズルズルと長い舌を引きずり入ってくる白く乾いた顔。恐ろしく、愛しい顔。
「トモ・・・。」彼女はグルリと反転した目玉で私を見つけ、すぅっと私に
近づき、紫色の長い舌を私の口に押し込んだ。立ったまま、石の様に固まった
私は、喉を通る長い舌の感触に身悶えした。私の体内で、その舌がポンプの
ように何かを吸い上げている。あっという間に力が抜けて、意識が薄らいだ。
絶望が、私を包んだ。お終いだ。これで呪いは拡散する。私の瞳に、最後に
映ったのは、トモだった。私の水分を吸い取ったのだろう、彼女の顔は、
元の張りのある艶を取り戻していた・・・。何も見えなくなった・・・。
トモの言葉が聞こえた。「サト。サトは正しい選択をしたよ。ありがとう。
呪にはもう、拡散する力はないよ。飲み込んだ人から人へと、ただ、
受継がれるだけ。」私は安心し、深い眠りに沈んでいった。(つづく・・・。)
337 継呪の老婆 ◆38avq92H7U sage New! 2005/12/04(日) 17:25:06 ID:orhP/4If0
私は、闇の中で眠りについていた。不意に、強烈な渇きを覚えた。急に、
暗闇から引きずり出される。私の喉は張り付いて、一滴のつばも出ない。
私は、舌をたらし、喉を掻き毟って水を求めた。ふと、遠くに人間が見えた。
私は近くの木に噛み付いた。水分は吸えなかった。遠くに見える女。あそこへ
行けば、水がもらえる・・・。数日後、私は女の家の入り口に立っていた。
女の姿が少し大きく見えた。また数日後、私は再び暗闇から引きずり出された。
やけ付いた喉が潰れそうだった。今日は、ついに、女の姿が大きく見える所
まで近づいた。手を伸ばせば届きそうだ。だが、私の手は動かない・・。
「水をください」その一言を伝えたくて、私は、動く部分をとにかく彼女に
近づけた。舌だけが動く。舌を長く伸ばし、必死に女に訴えた。だが、女は
私を救おうとせず、悲鳴を上げて逃げ去った。私は再び闇に引き戻された。
「ドウシテ キヅイテクレナイノ コノカワキヲ イヤシタイ ダケナノニ」
私は、唯一動く舌で暗闇の中で必死に水を求めた。だが、希望は見えている。
「モウスグダ モウスグ ミズヲ モラウコトガ デキル」私は確信した。
苦しみの中に喜びの笑みを浮かべた。