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上司の昔話

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241 上司の昔話(1/5) sage New! 2011/07/20(水) 22:12:44.62 ID:KT3ktib/0
会社の上司の昔話で、十五年くらい前のことだという。
当時まだ駆け出しだった上司が、某県某町に新設の事務所に配属された。
工場併設のその事務所は市街地を遠く離れた山の中にぽつんとあって、夜には車通りも無い淋しい場所だった。
事務所の前から県道を右にしばらく行くと某町のジャスコに行き当たる。左にしばらく行くと隣の某村に入るが、村の中心部の集落まではしばらくかかる、そんな立地だった。
その日の上司は、仕事を抱え込んで一人残業の末、疲れきって事務所を閉めた。
一人暮らしのアパートへと車を走らせていたところ、うっかり道を間違えていることに気付いた。
右に出るべきを左に出て、車はすでに某村に入ってしばらく経っているようだった。
車通りも無いので素直に切り返して戻ればよかったものを、上司は脇道に入った。
ぐるっとまわれば元の道に出られるだろうと考えたからだが、区画整理がされたわけでもない田舎道は、そうは行かないものだ。
走るだけ走ってさらに見つけた道に飛び込むことを数回繰返したが、どこをどう走ったかもすでに定かではなく、周囲は真っ暗で道はすでに細い。切り返しももう無理だった。

243 上司の昔話(2/5) sage New! 2011/07/20(水) 22:14:20.63 ID:KT3ktib/0
しかし、アスファルトと土肌が断続的に現れる道には轍が続いており、おそらくここは地域住民の生活道、きっと先には集落があると踏んで、先に進み続けた。
読み通り、小さな集落に行き着いた。何軒か先には明かりのついた家が散見される。
方向感覚に間違いが無ければ村の中心部では無いようだったが、帰り道が聞ければそれでいい。
遅い時間で恐縮ではあったが、なりふりを構ってもいられない。

上司は明かりのついた家の前で車を停め、ライトを消した。火をつけていたタバコを吸い切ってから、意を決して車を降りるとぎょっとした。
暗がりに、おそらくは十人以上の村人が立っていたのだ。
村人は老人ばかりで、一様に睨みつける顔付きからして明らかに歓迎されていなかった。
一人が大声を出す。するとほかの村人も続けて叫び出した。
何しに来た、帰れ他所者!どろぼう!…は、やらないぞ!やらんぞ!帰れ!
聞取れない部分もあったが、土地の方言でだいたいこんなことを言っているようだった。
上司は誤解を解こうと釈明をしながらもたじろぎ、後ずさりした。
背後に気配を感じ振り向くと、そこにはさらに十人ほどの村人がいた。彼らもまた何やら叫び出したが、上司が驚いたのはそこではなかった。

244 上司の昔話(3/5) sage New! 2011/07/20(水) 22:16:51.18 ID:KT3ktib/0
上司の顔のすぐ下で、小柄な老婆が、数珠を持って上司を見上げるように何かを唱えていたのだ。
尋常ならない空気に圧倒され、上司は車に舞い戻りアクセルを踏んだ。
村人は、上司を追い返そうとしているだけのようで、追ってくる様子はなかった。
はるか背後で、たぶん老婆のものであろう叫び声を聞いた。
後で知った事実から考えれば、唱えていた念仏の総仕上げの掛声のようなもので、それは自分に向けられたものであったのだろう。
結局、集落を抜けて無我夢中で走ったところ、村を抜けて隣県に行着いた。国道を大きくまわって自宅に帰れたのは朝方であった。

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