洒落怖
輪廻

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「おまえの女房はうまかったぞ」

と吐き捨てて、彼を殴り殺してしまった。
なんともむごい話である。
これでは喜助が浮かばれない。
案の定、喜助は霊となって良介を襲った。
殺されたときの傷を露にし、ものすごい形相で良介を追い立てたのだ。
そして、苦しみもがいた良介は、腹をかき破るという怪死を遂げた。
のち、飢餓も収束に向かい、この村にも平和が訪れたが、喜助を殺し、食った良介の子孫には、次々と不幸が訪れた。
一族から生まれてくる男の子は、みな精神分裂で、周囲の家に火をつけたり、娘を強姦したり、殺人を犯したというのだ。
その良介の子孫にあたるのが、間田家だったのだ。
非業の死を遂げた喜助の霊が、自分を殺した相手を呪い続け、代々にわたって発狂させたのか。
私は、輪廻(生まれ変わって因果を繰り返す)の恐ろしさに心を震わせながら、O氏に教えてもらった村の墓場に向かった。

良介の子孫、間田家の墓に線香をたむける。
ふっと上を見上げると、小高い丘のようなものが見えた。
私は、引き寄せられるようにその方向に足を進めた。
すると、草むらの中に、ぽっかりと口をあけた古井戸が見えた。

『その昔、裏山の麓に水のない井戸があり、大飢饉のときに人を殺して食べた残骸の捨て場所となっていた・・・』

O氏の言葉が蘇る。
周囲を観察すると、地形はちょうど山のすそのに位置していた。

「これが重ねの井戸か・・・」

水らしきものはなく、どこまでも深い穴のように感じられる。
その井戸から十メートルほど離れたところに、大きな石があった。
昔の墓のようだ。
よく見ると字が刻まれていた。

【本多家の墓】

・・・と。
たしか、殺されたマントルの女の名前も、本多・・・
本多啓子(仮名)だった。
私は急いで村に戻り、近くで農作業をする老婆に、本多家の墓や喜助のことを聞いてみた。
老婆の顔は一瞬こわばったが、深くうなずき、

「本多家は喜助の子孫だよ。でも、明治初期に滅びたと聞いている」

と言った。

私は翌日、役場に出向いた。
やはり、本多家は滅びてなかった。
転出しただけだ。
静岡に移り住み、小作人として大地主の元で働いていたという噂も入ってきた。
市役所でウラをとると、マンションで殺された本多啓子は、喜助の血を受け継いでいることが判明した。
私は、やっと、あのマンションで女の霊が

「良介・・・殺す・・・殺す・・・」

と訴えた理由がわかった。
では、喜助の呪いにかかった良介の子孫、間田英雄が、喜助の子孫である本多啓子を殺したとは、どういうことなのだろうか。
私は考えた。
代々に渡って間田家を狂わせた因果が巡りめぐって、今度は喜助自身の子孫の命を奪われた。
つまり自業自得に陥ったのかもしれない。
いや、待てよ。
こうは考えられないだろうか。
喜助の霊が間田家の英雄を狂わせる。
そして彼を、自分の子孫である本多啓子の元に呼び寄せ、彼女を殺させる。
すなわち、現実社会での重罪を犯させることによって、発狂よりもさらに激しい復讐を狙った。
そのためには、自分の子孫も犠牲にできた・・・
祟りとは、際限なく広がり、時に残酷すぎる結果をもたらすのかもしれない。

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  • 匿名 より:

    何度読んでもマントルが一番被害者

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