洒落怖
ナナシの話

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46 本当にあった怖い名無し sage 2008/05/06(火) 14:36:45 ID:LoVTQL1f0
僕もアキヤマさんも黙って聞いていた。
「だからね、もっかい生き返れば、いいなあって。今度は優しい母さんかもしれ
ないじゃん?
だから、頑張ったよ?俺。頑張って頑張って頑張って頑張って頑張って」
不意に、笑顔が泣きそうな顔に歪んだ。初めて見る表情だった。
「成功、したと、思ったんだ。」
そう言うとナナシは、斧を壁に叩き付けた。斧は深々と壁に突き刺さった。
「なのにさあ、母さん、俺のこと殺そうとするんだ。俺あんなに頑張ったのに。
だからもっかい殺したんだ。
でも、何回でも生き返って、俺のこと殺そうとするんだ」
ナナシは泣いていた。子どもみたいだ、と思った。そんなこと考えてる場合じゃ
ないし、実際子どもなんだから不思議なことじゃないのに。
それはすごく不思議だった。
「だから、ハル、いっしょに死んでよ。」
そんなことを考えていたとき、ナナシが言った。言ってる意味がわからなかった。
「…は?」
「友達でしょう、俺ら。母さんに殺される前に、いっしょに死んでよ。」
ナナシは僕に言った。ナナシの表情はいつものヘラヘラ笑いに変わっていた。後
ろから煙がどんどんやってくるのも見えた。
僕は発作的にアキヤマさんに逃げて!!と叫んでいた。
「僕は大丈夫だから!!火がまわっちゃう!!!誰か呼んできて!!」迷っていたが、ア
キヤマさんは頷いて走って行った。僕は、ナナシをなんとかしようと思った。
「な、何言ってんのナナシ、お母さんなんていないよ。死んじゃったんでしょ。
大丈夫だよ、きっと疲れてて…」
必死に言葉を並べてナナシを説得しようとした。しかし、ナナシの後ろから迫る
ものを見て二の句が継げなくなった。
「ひっ…」

47 本当にあった怖い名無し sage 2008/05/06(火) 14:37:21 ID:LoVTQL1f0
さっき病院で見たものと全く同じものが、ナナシの後ろにいた。なんで?さっき
消えたはずなのに、と考えていたとき、ナナシが言った。
「ね?逃げられないんだ、もう」
そしてナナシは、僕の首に手を掛けた。ゆっくりと力を加えられて、煙のせいか僕
は抵抗もできなかった。
「怖いの、もう嫌なんだよ。いっしょに死んでよ。お願いだからっ…」
ナナシが泣き笑いの表情を浮かべていた。ゆっくり目が霞んだ。なんだか、死んで
やらなくてはいけない気がした。

そして、目が覚めたとき、ありがちな話だが僕は病院のベッドの上だった。アキヤ
マさんが呼んできてくれた大人たちに助けられたようだ。火事も幸いひどくならず、
僕も気を失っただけで済んだ。
アキヤマさんは全容を大人に話はしなかったようで、ただの火遊びによる火事だと
思われたらしく、僕は親父に目茶苦茶叱られた。
そして、大人たちの話では、僕は家の庭に寝かせられていたそうで、だから怪我も
なにも無かったらしい。
「…あいつは?」
そう尋ねると、大人は顔を曇らせながら、火元の部屋で手首を切っているのが見つ
かったと教えてくれた。幸い命に別状は無いらしいが、しばらく入院した後に隣り
の市に住む親戚に引き取られると聞いた。
「火事を起こしてしまったから、責任感じて発作的に自殺しようとしたんだ」と言
われていたが、それは違う。ナナシは最初から死ぬつもりだった。僕を巻込んで。
そう思うと、許せない、という気持ちが沸いてきた。殺されそうになったこともそ
うだが、結局最後はひとりで死のうとしたことが許せなかったのだと、今は思う。
親友だと思っていたのに、いろいろな意味で裏切られた。それが許せなかったんだ
と思う。

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