洒落怖
けもの

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しばらく潜んでると、森の奥側(畑と反対側)にある一番でかい木ががさがさと木の葉を揺らしだした。
当時俺は猫の生態を知らなかったので、ああ猫は木の上に住んでるんだなーと思いながらぼんやり見てた。

突然、隣にいた弟が「…猿」とつぶやいた。

俺は「へ?」と思いその木の上のほうを見上げると、確かに何かいた。猫にしてはでかい。
いま思い返すと、その獣は夏であるにもかかわらずやけに毛深かった。
その獣が、樹上から地上に向かって木の幹にへばりつくような感じで、「頭を下にして」降りてくる。
どことなく爬虫類を思い出させるような、いやな感じの動きだった。

その「なんだかよくわからないもの」は、ゆっくりと池に向かって歩いてきた。
俺はいつの間にか体が震えていることに気付いた。隣を見ると、弟も顔を真っ青にして体を震わせている。
その生き物が近づいてくるにつれて、何か人の声のようなものが聞こえてきた。
耳を凝らすと、そのけものが何かつぶやいている。
「……………もの。……………もの。………………もの。………………」

なんだ。何を言ってるんだ。俺は当初の目的を忘れ、ここから逃げ出したくてたまらなくなった。
弟が一緒じゃなかったら、漏らしていたかもしれない。そのくらい怖かった。
やがてそのけものが近づいてきたときに、顔と呟きがはっきりと判った。
273 俺の体験した話3 sage 2009/07/07(火) 00:33:11 ID:MDJEHio50
あれは人の顔だ。

しかも人間で言うとこの乳幼児くらいの。そいつが無表情でつぶやいている言葉も聞き取れた。
「…いきるもの。………そだてるもの。……………かりとるもの。」
「…いきるもの。………そだてるもの。……………かりとるもの。

そして、鯉のところまで来ると、その鯉を見下ろし、ニタリ、と嫌らしい笑みを浮かべて
「これで……できる。」
そういって、鯉には手をつけずに帰っていった。

俺ら兄弟はしばらく動けなかった。呆然、という表現が正しいかもしれない。
我に返ると、いつもは使わない裏口への抜け道ルートを使って森を抜け、家まで辿り着いた。

さすがの俺らのこの出来事には参って、夕食の時には元気がなくて、飯ものどを通らなかった。
心配したばあちゃんが「どうしたの?」って聞いてきたけど、俺は何にもないよって答えるよりほかなかった。
けど弟はついに耐え切れなくなったのか「ねえ兄ちゃん、やっぱりあの猿…」と口走ってしまった。

その瞬間、じいちゃんがさっと顔色を変えたのがわかった。
人の顔があんなにわかりやすく変わったのは、後にも先にもそのときだけだと思う。

じいちゃんはなんだか怒ったような感じで「どういうことだ」と問い詰めてきた。
俺たちが観念して昼間のことを話すと、今度はばあちゃんと顔を見合わせて、
心配そうな顔で「気分はどうだ、なんともないか」ってしつこく俺と弟に聞いてきた。

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