洒落怖
廃墟探索

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うわっ、と思い、そのままGと工場を出た。すぐに日が沈んだ。

これでようやく下地が揃ってきた。
表現が感傷的なのは、日頃よりの癖だ。この方が俺は書きやすい。理解を願う。

916 光塵船 New! 2011/12/02(金) 17:29:15.54 ID:TQzRxFzv0
その年の暮れ、私はある人間関係、正確には男女関係の醜悪な混乱に憔悴していた。Gもそれと 深く関わりがあり、私は夜のバイトを終えてからその間待っていたGと二人、大いに飲み、泣い
て酩酊した。ウイスキーの瓶を片手に神戸の人工島で叫んだ。泣いて歌い、彷徨いながら、二人
はこの夜の過ごし方を考えていた。家にも帰らず、眠らないに決まっているからだ。度胸試しや
怖いもの知らずの吹聴などは、本人が弱っている時や、元々弱い者がすることに違いない。Gは
俺にあの鍵を持っているかと聞いた。今はもう真夜中だった。私は持っていた。
人一人歩いていない地区をゆきながら、私は扉など閉まっているに違いない、そしてこの鍵では
開けられないだろう、と心の中で言っていた。真夜中の旧生糸工場は、見るからに、やはり、日
のある時とは違っていた。私たちはしばらく門の前で躊躇した後、鍵を穴に当てた。しかし、そ
れは合わなかった。私は内心ほっと胸を撫で下ろし、Gと顔を見合わせて微笑み、扉にもたれた。
音も立てずそれは開いた。私たちは吐きそうになるほど動揺した。ありえないことだった。建物
の中はもちろん闇である。私たちは覚悟を決めて中へ入った。生ぬるく扉が閉まった。

917 光塵船 New! 2011/12/02(金) 17:29:56.39 ID:TQzRxFzv0
自分たちの存在を知らせないよう、私たちは明かりを点けないでいた。足音も殺した。しかし、
それは何のためだったのだろう。私たちは、いったい何に自分たちの存在を知られたくなかった
のだろう。これに答えるのは勇気のある者だ。私たちは数歩行って、闇に包まれながらも、私た
ちの目の前に何かがあるのを感じ、立ち止まった。「居る」ではなく「ある」とするのは、目前
の恐怖を認めたくない心理が働くからである。いつか夕刻に入った時にはそこには何も無かった
のに。ついにGがiPhoneを正面に向け、ディスプレイを発光させた。顔があった。身長180cmを
超える私たちの、更に10cmは上で、白い顔がこちらを向いていた。心臓を強く打たれた者が大声
で叫んだり激しく動いたり出来ぬように、私たちの反応は酷く緩慢だった。のろのろと後ずさり、
ゆっくりと光を上下させる。それは人ではなかった。まずは安堵したが、意味が分からない。暗
闇の中、チューリップを模した悪趣味で巨大な造形物が置かれているのだ。顔は、ちょうど花弁
の一枚に貼り付けられていた。意味が分からない。私たちはなぜそれで帰らなかったのだろう。
どうして奥へ進んだのだろう。光の無い廊下を進んでいった。私たちは終始無言だったが、自分
たちが向かっている先を、二人とも知っていた。あの半地下へ。

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