洒落怖
桜の咲く頃

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桜の咲く季節になると思い出す。

俺は、小学校からの悪友3人とよくつるんで、高校生になっても遊んでいた。
A,B,Cの悪友3人と俺、そしてもう一人、同じく小学校からの付き合いがある
さくらって言う女と。
さくらは俺らの中では、アイドルって程羨望の存在ではなかったが、他に
女の子との付き合いも無かった中、そこそこ清純で可愛らしかったことも
あって、「付き合いたい」という思いが全員の中に有りつつも、それを
どこかお互いに悟られまいとしていた。そんな歯がゆい関係だった。

高校3年の夏、俺ら5人は夏祭りのあと酒を買い、近所の公園で飲んだ。
酒の勢いもあってか、話題はいつしか「肝試し」になっていた。
近くの林の中には塚があり、塚の前で手を合わせると、恐ろしい姿の女が
現れ、女の姿を見た者は発狂するという、他愛もない噂が当時、半ば伝説の
ように伝播していたからだ。

531 2/10 2010/04/02(金) 02:53:33 ID:KLj3yh2Q0
「行ってみようぜ。俺らでさ」
当時、一番悪ぶっていたCが切り出した。お調子者のBは気のせいか、いつもの
元気がなく「やめよう・・・」と子犬のような顔でCを見る。
文武両道、正義感も強い俺らのヒーロー、Aは乗り気なようで、さくらに
「お前どうする?帰るか?」と気遣いも見せていた。

俺はといえば、さくらも一緒に行って、俺の肝が据わっていることを見せつけ、
好意を寄せてくれれば幸い、と当時皆が思っていたであろうことを考え、
Aの問いかけに首を振るさくらの姿を期待していた。

「私も行く!あんた達だけじゃ不安!」
さくらも同行の意思を示し、俺達は林へ向かった。あんなことになるとも知らず。

532 3/10 2010/04/02(金) 02:54:46 ID:KLj3yh2Q0
林を分け入って黙々と進んでいく。酒の力も徐々に薄れ、口数が少なくなっていく。
幸運にもさくらは俺の隣を歩いており、俺のシャツの袖を引っつかんでいた。
夜の林は月の光と、Aの照らす懐中電灯のか細い光が頼りだったが、程なくして
噂の塚に辿り着いた。

「ここで手を合わせる、んだっけ?」
Cはまだ酒が抜けていないのか、恐怖を表に出すまいと強がっているのか、
普段見せないおどけた様子で塚に近づく。Bは既に顔面蒼白で「帰ろう・・・」と
Aと俺の顔を交互に見ている。Aはつとめて冷静を保とうと、周りを注意深く
観察していた。
さくらは相変わらず俺のシャツを掴んでいたが、もはやシャツが引きちぎれんばかりの
力で、シャツを持つ手も心なしか震えていた。

「わあああああ!!!!!!」
Bが物凄い声で叫んだ。途端、俺たちは恐怖と緊張のピークを超え、脱兎の如く
散り散りに逃げ出した。誰がどう逃げたか、どこをどう走ったかも覚えていない。
ただ、闇雲に転げ周りながら走った。

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