洒落怖
裁き

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828 787 ◆G10zQMdncg sage New! 2012/02/22(水) 12:31:35.04 ID:U8CDXpqm0
必死にこの捜査の異常性を訴えてみせたが、私を取り囲む男たちはそれを無表情のまま黙って覗き込む。

私は見たくない。少女の死に顔を。少女を殺したのは私だ。私が殺したんだ。この手で。
だから、どんな裁きが俺を待ち構えていようと受け入れる覚悟だ。でも、それで十分なはずだ。
だから、頼むからどんな顔で死んでいるかなんて…俺は知りたくないんだ。

「では、ご確認ください」

白衣の男性が静かに白い布を取り払った。少女の素顔がゆっくりと光に照らされる。

831 787 ◆G10zQMdncg sage New! 2012/02/22(水) 12:40:21.06 ID:U8CDXpqm0
私の頬に大粒の涙が溢れ出す。もはや止めようのないこの涙が、人目をはばかることなく、ただただ流れ出てくる。

「ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…本当に…本当にごめんなさい…
 あなたを殺したのは私です…私があなたを殺しましたっ!!!ぁああああっ!!!」

彼女はもはや人ではなくなっていた。
その顔は酷く腐敗し黒く緑色に変色し、ほとんど骨と皮だけの状態のものに蛆が食らいついていたのだ。
生前の状態を何一つ留めていない生身の身体。もはや顔の識別すらつかなくなった生身の身体。

少女をこんな状態にしたのは私自身だ。私はその身体の前で、何度も何度も謝罪の言葉を叫び続けていた。
生前の彼女がどれほどの凶悪犯であったかなどという事柄は、もはやこの場ではなんら意味を成さなくなっていた。
私が成さなければならないことは、少女の目の前で自分の罪を素直に告白すること。ただそれだけでしかなかった。

832 787 ◆G10zQMdncg sage New! 2012/02/22(水) 12:45:12.08 ID:U8CDXpqm0
「バタン」勢いよく部屋のドアが開く。そこに一人の中年男性が呆然として立ち竦んでいた。
男性はその場で硬直したまま目前の光景が信じられないといった面持ちで、彼女の遺体を凝視している。
間違いない、彼女の父親だ。そう確信した私はその男性に向かって深々と土下座した。

「あなたの娘さんを殺したのはこの私です!私が殺しました!!
 申し訳ございませんでした!私はこれから待ち受けるどんな罰をも受け入れる所存です。
 ですが、それでもなお いったいどんな風にして償えばこの罪を赦して戴けるのかっ!!
 私には皆目検討もつかず…その…私は…私は…!!!」

涙に溺れ言葉に詰まる私に耳元で誰かが囁く

「あなたを赦さない」

833 787 ◆G10zQMdncg sage New! 2012/02/22(水) 12:51:04.20 ID:U8CDXpqm0
ここで目を覚ました私は額に流れる涙を軽く拭うと暫く呆然として波打つ鼓動を落ち着かせた。
布団の中ではすでに体中がジットリとした汗で濡れている。それにしてもアレはなんだったんだ。
目を覚ましたいまでもこうして一つ一つの事柄を鮮明に思い出せる。

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