洒落怖
ローラー車

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510 : 506 : 2012/06/07(木) 10:06:38.91 ID:6R/OCGUJ0
遺族の方は,かなり興奮しているだろうと思っていた。
だが,実際は,冷静に事実を受け止め,お金はどうでもいいんです,という態度だった。
話に入る前に,お焼香をさせてもらう。
遺影を改めて見ると,綺麗な顔立ちの人だ。
会社の関係者から先に聞いた話によると,事務員として勤めるようになってから,既に3年。
年配の従業員が多い職場だったが,みんなに可愛がられていたとのことだった。
特に,事故を起こした従業員は,自分の娘のように可愛がっていたとのことで,
「ワシの息子が独身だったら,絶対に○○ちゃんと結婚させるがなぁ」と日頃から触れ回っていたとのことだった。
その分,悲しみは異常なまでに深く,当の従業員自身は,事故後に,自殺まで図り,
現在でもほとんど放心状態で過ごしているとのことだった。

511 : 506 : 2012/06/07(木) 10:09:52.27 ID:6R/OCGUJ0
会社の方も,誠意をもって対応していたようだし,お母さんから恨み辛みは聞かれなかった。
保険金額について争うとかも考えていないようで,
ただ,娘が可哀想に・・・嫁にもいかないで死んでしまうなんて・・・と,
そう話すお母さんの言葉に,俺の言葉は詰まった。
調査如きを行う立場でしかない自分にとって,大したことなど出来ないが,
できるだけお母さんの力になってあげたいと思った。

512 : 506 : 2012/06/07(木) 10:12:44.68 ID:6R/OCGUJ0
長らくこの仕事をやっていても慣れないこの感覚を抱えたまま,俺はお母さんにお礼の言葉を述べ,実家を後にした。
ふと思った。
車の方へ続く道には,さっき会った女性がいるかも知れない。
体中が総毛立つ。
顔を合わせればお礼の一言も言うべきだろうが,正直言って会いたくない。
何というか,本能が拒否している感じだった。
だけど,土地勘のない俺にとっては,来た道を引き返すしかない。
努めて冷静に,俺は引き返していった。
幸い・・・と言ったら失礼だが,女性に会うことはなかった。

513 : 506 : 2012/06/07(木) 10:14:16.33 ID:6R/OCGUJ0
俺は,安堵しながら車に乗り込もうとしたが,車のボディに,いくつも手形がついている。
薄汚れた茶色っぽい手形が,ボンネットに数カ所,運転席側のドアに数カ所ついている。
白いボディだから,とても目立つ。
俺は,車から汚れとりのウエットシートを取り出し,目につく箇所を拭いた。
幸い,汚れはすぐにとれた。
車上荒らしかとも思ったが,別に盗られたものはない。空き地とはいえ,私有地だろうから,怒った所有者がいじり回したのかも知れない。
いずれにしても,あまり気にしないようにして,俺はさっさと車を発進させた。

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