子どものころの怖い話
隙間人間

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テレビに映し出されたその夫婦の顔を、僕は忘れた事などなかった。
年甲斐もない金髪。耳に沢山つけた下品なピアス。目の下のクマ。
彼によく似た鼻。彼によく似た唇。彼によく似た面立ち。
彼には似ても似つかない、半開きで黄色く濁った白目。

僕は絶望した。
そのニュースを見た瞬間から、どの隙間を見ても、彼が見つからなくなったからだ。
僕は声を上げ、涙を流して彼を捜した。
家の中も、町中も走り回って探した。
でも、どこにも彼はいなかった。

辛い。
彼がいない世界は辛すぎる。
だから僕は、明日の朝、隙間の世界に旅立つ事に決めた。
僕には彼のように隙間の世界に誘ってくれる人はもういないから、自分で電車とホームの隙間にでも飛び込んでみようと思う。

もし貴方がどこかの隙間に人が挟まっている有り得ない光景を見たとしても、決して怖がらないで欲しい。
だって、僕らはきっと幸せだから。こんな世界より、ずっと幸せだから。

それでは、みなさん、さようなら。

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